成年被後見人の居住用不動産を売却する際の手続について解説していきます。
成年被後見人が老人ホームなどに入居しており、空き家を維持するために管理費用や手間がかかってしまう場合には、その家を売却して、成年被後見人の将来の生活費にあてたほうが良いというケースがあります。
居住用不動産処分許可の申立とは
成年被後見人(以下、「本人」といいます。)の居住用不動産を処分する場合には、必ず、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
居住用不動産の処分に伴う住環境の変化が、本人の心身の状態に与える影響は重大です。
そのため、この申立を許可すべきかどうかは裁判所によって慎重に判断されます。
裁判所の許可を取らずに売却してしまったらどうなるのですか?
その場合、その取引は無効となります。
居住用不動産とは、以下の不動産をいいます。
- 本人が現に居住している家
- 本人が過去に居住していた家
- 本人が将来的に居住する可能性のある家(現在は病院や施設に入居しているが、退院後した場合には居住することになる家など)
また、不動産の処分とは、以下の行為等をいいます。
- 売却
- 取り壊し
- 抵当権の設定
- 賃貸に出すこと
居住用不動産処分許可の申立の手順
不動産の処分手続は、以下の手順で進めていきます。なお、この解説では不動産業者が仲介することを前提としていますが、個人の買主との取引でも、手続きはほとんど同じです。
各STEPのタイトルをクリックすると、詳しい説明に飛びます!
不動産仲介業者との打ち合わせ
不動産仲介業者と、売買についての打ち合わせを行います。
そして、不動産仲介業者に、不動産購入申込書、不動産の査定書等(売却価格が妥当であることを示す書類)を発行してもらいます。
裁判所に連絡票を提出
許可申立が必要である事情について、裁判所にあらかじめ「連絡票」を提出します。
この連絡票を提出すると、裁判所が審理をして、その結果について口頭で連絡があります。
連絡票見本
遺産分割審判で成年被後見人が相続した自宅不動産を売却するという事例です。この場合は、審判とその確定証明書の写しも資料として提出します(この事例では、審判に誤記があり、更正手続きがなされたため、更正決定とその確定証明書も提出しています。)。
連絡票に添付する書類
- 不動産購入申込書
- 不動産の査定評価書(売却価格が妥当であることを示す書類)
- 対象不動産の固定資産評価証明書
- その他、売却に係る費用についての見積書や計算書がある場合はあわせて提出します
裁判所に居住用不動産処分許可の申立書を提出する
裁判所から、連絡票に対して、このまま手続を進めてもよいという回答があったら、不動産仲介業者との取引交渉を開始します。
そして、取引が成立する直前の段階で、裁判所に居住用不動産処分許可の申立を行います。
居住用不動産処分許可の申立書見本
許可申立書作成にあたっての注意事項
自宅を売却処分しても、成年被後見人の将来の生活に支障がないことおよび、自宅を売却処分しなければならない事情を具体的に記載します。
物件目録を作成し、3ページ目として申立書と一緒に綴じ込みます。
許可申立書に添付する書類等
- 収入印紙800円
- 本人の住民票写し(本籍地の記載のあるもの)
- 既に提出してあり、記載事項に変更がない場合は不要です。
- 不動産売買契約書の案(写し)
- 対象不動産の全部事項証明書
- 既に提出してあり、記載事項に変更がない場合は不要です。
- 対象不動産の固定資産税評価証明書
- 対象不動産の査定評価書(売却価格が妥当であることを示す書類)
- 買受人の住所・氏名が確認できる書類(住民票など)
- 買受人が法人の場合は、資格証明書(代表者事項証明書で大丈夫です。)
- その他、売却に係る費用についての見積書や計算書がある場合はあわせて提出します。
許可決定を受けて、売買契約を締結する
申立が許可されると、裁判所から審判書謄本が交付されます。
居住用不動産処分の許可申立は、「成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可申立事件」として家事審判の事件番号が付されます。
この審判に対しては即時抗告ができないため、裁判所の告知によって効力が発生し、確定します。
よって、以後の手続に審判の確定証明書は必要ありません!
不動産仲介業者と売買契約を締結し、所有権の移転登記を行います。
所有権移転登記は、不動産仲介業者の提携司法書士が行う場合がほとんどだと思われますので、下記の書類は、登記手続に必要な書類も含まれています。
売買契約にあたり、不動産仲介業者に渡す書類等
- 居住用不動産処分の許可審判書謄本
- 成年後見人の登記事項証明書
- 本人の住民票
- 対象不動産の登記識別情報
- 対象不動産の固定資産評価証明書
- 成年後見人の印鑑証明書
- 詳しくは、「成年後見人の印鑑証明書について」を参照下さい。
裁判所へ報告
所有権移転登記が完了したら、司法書士から登記完了証と全部事項証明書を受け取ります。
これをもって居住用不動産売却の手続が終了しましたので、裁判所にその旨の報告書を提出します。
報告書に添付する書類
- 売買契約書(写し)
- 登記完了証(写し)
- 全部事項証明書(写し)
- 売買にかかった費用の明細書・領収証(司法書士の報酬など)
- 売却代金が入金された通帳の写し
近々(大体1ヵ月以内くらい)、定例報告を予定している場合は、定例報告書に記載して一緒に報告する形でも大丈夫です。
成年後見人の印鑑証明書について
成年後見人の業務を行う際には、弁護士個人の実印ではなく、職印を使用し、その職印の証明書を印鑑証明書とします。
現在、成年後見人業務のための職印証明書を発行する機関は、所属弁護士会と家庭裁判所です。
不動産売買および所有権移転登記手続において、どちらの印鑑証明書を使用するかは、不動産仲介業者または司法書士にお尋ね下さい。
弁護士会発行の職印証明書
所属弁護士会で発行してもらう証明書です。
手数料は基本的に無料であると思われますが、弁護士会によって運用は異なりますので、詳しくは所属弁護士会にお問い合わせ下さい。
弁護士会職印証明申請書見本
家庭裁判所の成年後見人印鑑証明書
平成30年1月1日より、専門職後見人等が届け出た印鑑(職印)に関する書記官名の証明書を交付する運用が開始されました。
裁判所によっては、まだこの制度を導入していない所もありますが、今後はこの印鑑証明書の使用が標準となるでしょう。
この制度を利用して印鑑証明を発行してもらう際には、印鑑証明申請書と一緒に印鑑届を提出します。
成年後見人の印鑑届見本
成年後見人印鑑証明申請書見本
申請書は適宜の様式で構いませんが、家庭裁判所への各種証明書申請の際はこの見本書式の形式で申請することがほとんどです。
成年後見人印鑑証明申請の際の注意事項
- 手数料は、証明書1通につき収入印紙150円です。
- 不動産登記を行う場面で申請します。
- 後見登記事項証明書を添付します。
- 作成日付が申請から3か月以内のもの、コピー可。未成年後見は除きます。
- 印鑑届は、この書式以外のものを用いないようにしましょう。
- 裁判所のホームページから書式をダウンロードできます。
- 作成に当たっては、本人情報 及び後見人等情報は後見登記事項証明書(未成年後見は除く)の記載と一致していることを確認しましょう。
- 登記未了の場合などは、裁判所まで問い合わせましょう。
おわりに
以上、成年被後見人の居住用不動産売却手続について解説しました。
成年被後見人が安定した生活を送ることができるように、弁護士の指示を受けながら誠実に後見事務を行っていきましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!