個人再生手続きの受任時に、気を付けて確認しなければならない事柄について解説していきます。
確認すべきことが沢山ありますので大変ですが、何事も最初が肝心です。
この記事は、破産手続きではなく個人再生手続きを選択していることを前提としています。
依頼者は状況を正確に把握していないのが普通です
事務所に相談に来られた時点では、依頼者は、とても混乱されています。
債権者からの請求はもちろん、裁判所からの督促状が届いてることもありますし、なかにはすでに給与の差し押さえを受けてしまっている方もおられるかもしれません。 依頼者は、今後自分の生活はどうなっていくのだろうかという不安に苛まれてとてもナーバスになっておられます。
そのような状態なので、何も資料を持ってこない方もおられますし、債権者一覧表等を準備して来られる場合でも、情報に抜けが多く自分でも自分のおかれた状況を正確に把握できていないことがほとんどです。
再生手続きを円滑に進めていくためには、こちらからうまく聞き出して依頼者にまつわる事実を明らかにする必要があります。
事前に再生手続希望であることが分かっている場合は、最低限以下の書類を持参してもらいましょう。
- 自宅の土地・建物の全部事項証明書
- 住宅ローン契約書(変更契約時に新たに保証人が設定されている場合があります)
- 給与明細書(可能であれば退職金額についても)
- 源泉徴収票2年分
- 保険証書(可能であれば返戻金額についても)
- 携帯電話料金の請求明細書
- 債権者一覧表
資料がない状態でチェックリストを作成する場合は、あくまで相談段階での簡易なチェックであり、手続きを進めていく中で判明した事実によっては再生計画による返済総額に変動があること、場合によっては再生手続きではなく破産手続きに切り替えるなどの措置が必要になることを明確に伝えましょう。
再生手続きチェックリストダウンロード
何から確認したらいいんでしょうか?
漠然としてよく分かりません・・・。
依頼者の現状を把握するためのチェックリストを作成しました。ご自由にご利用ください。リストの記載内容については、次項から解説していきます。
一般債権に関する注意事項
再生債権は、再生手続開始決定前の原因に基づいて生じた財産上の請求権です。再生債権は、原則として再生計画によらなければ、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く)をすることができません。
個人再生では、以下の債権は非免責債権であり、全額を支払わなければなりません。
- 再生債務者が悪意で加えた不法行為
- 故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 親族間の扶養義務に係る請求権
これらは、同意がある場合を除いて、債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることができません(民事再生法229条3項、224条)。
これらの債権も再生債権であり、最低弁済額算定の基礎になり、債権者一覧表への記載も必要になります。再生手続きによらずに返済することはできませんので、再生計画に従い弁済を行い、その残額を再生計画の弁済終了後に弁済することになります。
負債総額が5000万円以下か(手続開始決定時)
住宅ローン特則を利用する場合、住宅ローンの負債額は含まれません
保証債務も含みます。
依頼者が誰かの保証人になっていることについて、忘れてしまっている場合があります。住宅ローンや銀行のローンだけでなく、奨学金や個人間の借り入れなどについても確認をしましょう。
別除権の行使で弁済が受けられる額は除きます。
ローンで購入した物品などにつき、担保権が設定されているものは、その物品を売却などした場合に充当される金額を除いた額が負債額となります。
再生手続開始決定の時において、再生債務者の財産に設定した担保権を有するものは、その目的である財産について別除権を有します。
これらの担保権者は、再生手続に拘束されることなくいつでも担保権を行使することができますが、担保権を行使しても債権全額の回収ができないと見込まれる場合、債権者一覧表には担保不足見込額を記載することになります。
罰金は除きます。
再生手続開始決定までに課された罰金は再生債権に含まれません。従って、随時支払いをしていく必要があります。
税金や国民健康保険料などの公租公課は含まれません。
公租公課(自動車税、固定資産税、市県民税、国民年金、国民健康保険料など)は一般優先債権であるため、再生債権には含まれません。従って、随時支払いをしていく必要があります。
利息や遅延損害金も含みます。
受任時に負債総額が5000万円ぎりぎりだった場合、注意が必要です。
申立時には、債権者からの債権届に基づいた債権額を記載した債権者一覧表を提出しますが、受任後も利息や遅延損害金は継続的に発生しています。再生手続開始決定の後に改めて債権者から裁判所へ債権の届出がなされますが、開始決定時までの利息や遅延損害金が加算された結果、5000万円を超えてしまう場合があります。
負債総額が5000万円を超えてしまった場合には、再生手続は利用できません。
連帯保証人はいないか
連帯保証人の返済義務が具現化する(債権者から一括返済を求められるなど)ため、連帯保証人についても破産や再生などの手続きが必要になることがあります。配偶者や親兄弟が連帯保証人になっていないか確認しましょう。
親族や友人からの借り入れはないか
私たちの方から問いかけをしないと、親族や友人からの借り入れがあることを明かさない方もおられます。
大抵の場合、故意に隠しているわけではないのですが、依頼者は親族や友人に対する借り入れを優先的に返済したいと考えています。相談にこられた時点で、金融機関などの債権者への返済は滞っていても、親族や友人に対しては返済を続けているということはよくあります。しかし、親族や友人を特別扱いすることは許されず、他の債権者と同等に扱わなければならないことを理解していただかなければいけません。
そして、親族や友人等を債権者に追加する場合は、事務所からの受任通知や裁判所からの通知などがあることも含めて事前に依頼者の方から説明をしていただいた方が手続きが円滑に進みます。
債権者の漏れがないようにしっかり聞き取りをしましょう。
再生手続開始決定後には申立人から債権者を追加することはできず、書面による決議に付する決定・意見聴取後には債権者側からも追完できませんので、漏れがあった場合には、一般弁済期間中に上乗せして支払うことになってしまいます。(民事再生法95条4項)
公租公課の滞納はないか
公租公課(自動車税、固定資産税、市県民税、国民年金、国民健康保険料など)の滞納がある場合は、原則として再生手続申立までに完納する必要があります。(再生計画による返済遂行可能性の判断に影響があるためです)
完納が難しい場合は、依頼者にそれぞれの納付先に相談してもらい、分割での納付計画を提出してもらいます。
ローンが残っている車や家電などはないか
ローンが残っている物品は、基本的に債権者に返却することになります(所有権の留保がある場合)。
どうしても返却を避けたい場合、親族等から第三者弁済をしてもらい、親族等を新たな債権者とする方法があります。そのうえで、例えば、対象物が車の場合、支払をしてくれた親族等に名義を変更し、本人は親族等からその車を借りて使用していくという形をとります。
なお、ローンで購入した物品であっても、所有権留保特約がなく、引き揚げ対象外とされている場合があります。
債権者に問い合わせをしてきちんと確認しておきましょう。
車の所有権が留保されている場合、車検証の所有者欄にローン債権者の会社名が記載されているはずですが、最近では、車検証には記載されていなくても、所有権留保特約付きの契約を結んでいる場合がありますので、契約書もしっかりチェックしましょう。
自動車の取扱についてはこちら
携帯電話について、本体代金の分割払いや携帯払い等を利用していないか
携帯電話本体の分割払いを完済していない場合、債権者として扱う必要があります。携帯払い(ドコモd払いやauかんたん決済など)の残高が残っている場合も同様です。
依頼者は、多くの場合、本体の分割払いや携帯払いを借金だと認識していません。請求明細書を確認しましょう。
携帯電話が使用できなくなりますので、受任通知発送までに他の通信会社と契約する必要がありますが、近年、通話料金等の支払い方法をクレジットカードのみとしている会社がほとんどであり、依頼者本人はクレジットカードを利用できないことから、依頼者本人名義での契約が難しい場合があります。
その場合は、親族名義で契約をしてもらい、その携帯電話を使わせてもらうという方法をとります。
なお、携帯電話本体が没収されることはありませんので、SIMフリーのものであれば他の通信会社と契約した後もそのまま同じ携帯電話を使用することができます。万が一、通信会社を変更することによってそれまで使用していた携帯電話本体が使えなくなる場合、新しい携帯電話本体を本人が分割で購入することはできませんので、必ず現金にて一括払いをするか、親族に購入してもらうようにしましょう。
住宅資金特別条項について
対象の住宅は、本人が所有し、床面積の2分の1以上が居住用である住宅か
他者との共有名義でも大丈夫です。
自営業者などで、自宅の一部を店舗としている場合は、居住用床面積について注意が必要です。
住宅の敷地が他者の所有(親族など)でも大丈夫です。
両親の所有する土地に住宅を建てているというケースはよくあります。
住宅ローン以外の抵当権が設定されていないか
住宅に、住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合は、設定順位の前後を問わず、再生手続きは利用できません。(民事再生法198条1項)
また、親族所有の土地の上に住宅を建てている場合は、その土地も住宅ローンの共同担保として抵当権が設定されているのが一般的です。共同担保となっている土地に住宅ローンに後れる抵当権(後順位抵当権)が設定されている場合は、住宅ローン特則を利用することはできません。(民事再生法198条1項)
これらのケースに該当する場合は、裁判所への申立までに抵当権者に弁済をして、抵当権を抹消する必要があります。具体的には、債権者の許可を得て親族等に第三者弁済をしてもらい、その第三者を債権者に追加します(債務者が依頼者本人の場合。債務者が親族等の場合は第三者弁済ではないので、債権者には追加しません。)。
住宅の権利関係について正確に把握しておく必要があります。できるだけ早い段階で登記事項証明書を入手して確認をしましょう。
住宅ローンを滞納していないか
裁判所への申立までに弁済をして、滞納を解消する必要があります。本人が弁済をすると偏頗弁済にあたるおそれがありますので、親族等に第三者弁済をしてもらい、その親族を新たな債権者に追加します。
保証会社が代位弁済をしている場合は、6ヵ月以内に申立をしなければなりません。(民事再生法198条2項)
マンション管理費・修繕積立金を滞納していないか
マンション管理費や修繕積立金を滞納している場合は、住宅資金特別条項の利用ができません。
マンション管理費・修繕積立金の滞納があると、管理組合等は債務者に対する管理費を被担保債権として、債務者の区分所有権上に先取特権を有します(区分所有法7条1項)。そして、マンションの滞納管理費を被担保債権とする先取特権が行使された場合、債務者は住宅を手放すことになるためです(この先取特権は、民事再生法53条1項の「特別の先取特権」であり、民事再生法上「別除権」として再生手続によらないで行使することができます。)
滞納を解消して住宅特則を利用するためには、申立てまでに親族等から第三者弁済をしてもらい、親族等を新たな債権者としなければなりません。
住宅の査定価格が住宅ローン残高を上回っていないか
住宅の査定価格が住宅ローン残高を大幅に上回る場合、再生計画による返済総額が高額になることがあります。
特に、親族所有の土地の上に住宅を建てている場合、家と土地の時価の合計から住宅ローンの残債を差し引いて、残った金額を家と土地の時価の割合で比例配分することになりますが、このようなケースでは査定価格のほうが住宅ローン残高を上回ることが多いので、注意が必要です。
その他
過去7年以内に破産の免責決定や再生計画認可決定を受けていないか
以下に該当する場合は給与所得者等再生を利用することはできません。 裁判所への申立時点において、
- 過去に給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行されたことがある場合、その再生計画認可決定が確定してから7年を経過していないとき
- 過去に小規模個人再生または給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行され、民事再生法235条1項の免責(ハードシップ免責)の決定を受けたことがある場合、そのハードシップ免責決定が確定してから7年を経過していないとき
- 過去に破産手続における免責許可決定を受けたことがある場合、その免責許可決定が確定してから7年を経過していないとき
なお、小規模個人再生を選択する場合は、上記のような制限事項はありません。
勤務先に対して何らかの手続が必要になる場合があること
勤続5年以上の場合、退職金見込額証明書の提出が必要です。
給与から財形貯蓄、組合費、生命保険料等が天引きされている場合は、全てについて詳しい内訳と積立金額の証明書等を発行してもらう必要があります。
大抵の依頼者は、勤務先に知られることを避けたいと考えておられます。
上記証明書等を申請する際に、勤務先に対して再生手続きを取ることを伝える必要はないこと、申請理由を聞かれた場合には、FPにライフプランについて相談するため等と回答すれば良い旨を説明して安心してもらいましょう。
勤務先に対して借り入れがある場合は、勤務先も債権者として扱う必要がありますが、給与天引きの方法で返済をしている場合、依頼者自身に借り入れをしている自覚がないことがあります。給与明細書の記載事項をしっかりチェックしましょう。
勤務先に借り入れがあるが、個人再生手続きを取ることをどうしても知られたくないという方もおられます。その場合に取りうる解決手段としては、以下のふたつの方法が考えられます。
- 勤務先の債務があとわずかという場合は、受任を数ヶ月遅らせ、勤務先へ完済するという方法(ただし、その間、全債権者へ平等に約定通りの返済を続けなければなりません。)
- 勤務先に対して、親族等から第三者弁済をしてもらい、親族を新たな債権者とする方法
個人再生手続きをすると、官報に住所や氏名などが掲載されること
個人再生手続きを取ると、再生債務者の住所や氏名が官報に掲載されます。その理由は、個人再生の手続きに参加できない債権者に対して、権利を行使する機会を与えるためですので、官報に掲載されることを拒否したり、内容を変更・消去したりすることはできません。
紙媒体は政府刊行物取扱店のみで販売されており、インターネットで無料閲覧ができるのは直近30日分ですので、官報によって個人再生を家族や勤務先に知られる可能性は低いと思われます。
依頼者は他人に知られるのではないかという点に敏感になっておられます。「破産者マップ」の例もありますので、絶対に誰にも知られないという保証はありませんが、基本的には自分から告げない限りは他人に知られる可能性は低いということを伝えましょう。
返済総額がどのくらいになるのかチェックをしましょう
ここまで、再生手続きを利用するための要件について見てきましたが、再生手続きの利用に関しては問題がなくても、肝心の返済総額が思いのほか高くなってしまう場合があります。
個人再生においては,破産をしたと仮定した場合にどのくらいの配当がなされていたのかを想定して、その配当率以上の弁済率でなければならないとする、清算価値保障原則というものがあります。つまり、計画弁済総額は、最低弁済額と破産の場合の予想配当額のいずれか高額な方以上の金額でなければならないということです。
例えば、依頼者の負債総額が300万円の場合は最低弁済額は100万円ですが、依頼者が退職金や保険解約返戻金などで200万円相当の財産を有しているならば、依頼者は200万円以上を返済しなければなりません。
ただし、依頼者が保有するすべての財産が対象とされるわけではありません。自由財産として控除されるものもあり、どこまでを自由財産とするか(=清算価値基準といいます)は裁判所によって運用が大きく異なりますので、管轄裁判所の清算価値基準について必ず確認しておきましょう。
最低弁済額よりも(自由財産を控除した)資産額が上回ってしまった場合は、その資産額分は返済しなければならないということですね。
そのとおりです。
返済に追われているので自分には財産などないと思い込んでいても、子供名義の預金や給与天引の財形預金などが思いのほか積み上がっている場合があるんですよ。
そこで、受任時に依頼者の財産についてもチェックしておく必要がありますが、その中で特に気をつけるべき項目は以下の4つです。
- 子供名義の預貯金も含む場合があります。(子供が未成年で、依頼者の給与による預貯金であることが明白なとき等)
- 給与天引きの財形預金の残高が高額になっている場合があります。
- 生命保険について、依頼者以外が被保険者となっていても、契約者が依頼者であれば、その契約の解約返戻金は依頼者の財産とみなされます。
- 親族所有の土地の上に住宅を建てている場合、家と土地の時価の合計から住宅ローンの残債を差し引いて、残った金額を家と土地の時価の割合で比例配分することになりますが、このようなケースでは査定価格のほうが住宅ローン残高を上回ることが多いので、注意が必要です。
おわりに
以上、個人再生手続受任の際にチェックしておくべき事柄について解説しました。
最初にしっかり確認・説明をしておかないと、後で思わぬトラブルに発展してしまうことがあります。特に、債権者漏れと、最低弁済額の算定に影響する財産状況について注意しましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!