文書送付嘱託と調査嘱託の違いと、申立手続きからその後の謄写申請の方法まで詳しく解説していきます。
このふたつの言葉は一見するとよく似ていて、違いが理解しづらい制度ですね。申立書そのものは弁護士が作成しますが、その後の手続は私たちが行います。手続の流れをしっかり理解しましょう。
文書送付嘱託/調査嘱託とは
民事訴訟における証拠収集
民事訴訟では、裁判の当事者(原告と被告)が提出した証拠に基づいて裁判官が事実を認定し、判決を言い渡します。裁判所が職権を行使して証拠を収集してくれるわけではありませんので、原告・被告は、それぞれ自己の主張を裏付け、証明する証拠書類を自身で収集して裁判所に提出しなければなりません。
でも、相手しか持っていない証拠はどうなるの?
直接お願いしても提出してもらえないですよね?
そこが困ったところなんです。証拠を隠されて、こちらが入手できなければ裁判に負けてしまいますよね。
そこで、証拠収集の手段として、民事訴訟法上いくつかの制度が用意されていますが、そのなかで実務上よく用いられるのが
- 文書送付嘱託
- 調査嘱託
のふたつです。
どちらの制度も強制力はありません。
両者の主な違いは、「調査」を挟むかどうかということです。
文書送付嘱託
書証の申出は、第二百十九条の規定にかかわらず、文書の所持者にその文書の送付を嘱託することを申し立ててすることができる。ただし、当事者が法令により文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合は、この限りでない。
出典:e-Govポータル 民事訴訟法226条
文書送付嘱託は、裁判所を通じて、第三者である文書の所持者に対し、その文書を任意に裁判所へ送付するよう嘱託する手続きをいいます。
具体的には、交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が係争の交通事故と被害者が主張する傷害との因果関係や傷害の内容・程度等を立証するため、通院した医療機関を文書の所持者として、診療録の裁判所への送付を求める場合などがあります。
民事訴訟においては頻繁に用いられています。
調査嘱託
裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。
出典:e-Govポータル 民事訴訟法186条
調査嘱託は、裁判所が他の国家の機関や一般の団体等に、一定の調査を嘱託する手続きをいいます。
具体的には、離婚事件において、夫が自分の預金額や退職金の額を任意に開示しないが、妻本人が銀行・会社に対して問い合わせても、個人情報の観点から銀行や会社は回答してくれないとき、裁判所から銀行・会社に対して情報開示を求める場合などがあります。
きちんと調査してもらえるとありがたいですね!
文書送付嘱託とは異なり、調査の結果を証拠とするには、当事者の意見陳述の機会があれば足り、当事者による証拠提出は不要とされています。
文書送付嘱託申立/調査嘱託申立の流れ
文書送付嘱託申立書/調査嘱託申立書を提出します。
申立書は弁護士が作成します。
※ 申立てに際して、手数料(収入印紙)は不要です。
裁判所だけでなく、相手方にも必ず直送します。(FAX送信可)
裁判所は、相手方の意見を聞いて、申立を採用するかどうか決めます。
後日、裁判所から採用または却下の判断について電話で連絡があります。
相手方から採用反対の「意見書」が提出されることもあります。
採用が決まれば、裁判所が文書等の所持者に対して送付/調査の嘱託を行います。
文書等の所持者が送付/調査の嘱託に協力する場合、当該文書等を裁判所に送付します。
文書等が裁判所に届いたら、裁判所から再び電話連絡があります。弁護士にその文書等を謄写するかどうか確認し、必要であれば謄写申請を行います。
相手方が申し立てた文書等でも閲覧・謄写可能です。
謄写した記録は、必要な部分を書証にして提出します。
謄写ってなんですか?特別な手続きなんでしょうか?
「謄写(とうしゃ)」とは、いわゆる「コピーをとる」ことです。
次項から詳しく説明してくので心配しないでね。
民事訴訟記録の謄写
民事訴訟記録の謄写(とうしゃ)方法を解説していきます。
弁護士は、訴訟の当事者や利害関係人の代理人として閲覧謄写申請を行います。
謄写申請書の書式見本
謄写申請書の書式
基本的な書式の書き方はこちらです。
この書式は全国の裁判所共通です。
謄写申請書の書き方
前項の見本のとおりに記入します。
申請人氏名は弁護士の名前、印鑑は職印を使用します。
閲覧等の部分の具体的な書き方
「閲覧等の部分」の具体的な書き方について悩むことが多いかと思います。申請する機会が多い書類の記載例は以下のとおりです。
謄写を申請する書類 | 具体的な書き方 | 備 考 |
---|---|---|
証人尋問の調書(当事者) | 令和〇年〇月○日付 原告東京太郎本人調書 | 日付は証人尋問が行われた日を記入 |
証人尋問の調書(証人) | 令和〇年〇月○日付 証人千葉二郎本人調書 | 日付は証人尋問が行われた日を記入 |
文書送付嘱託回答文書 (調査嘱託回答文書) | 令和〇年〇月〇日付申立の文書送付嘱託 (調査嘱託) | 日付はその申立が行われた日を記入 (申立書記載の日付になります) |
謄写申請の委任状
謄写事務は、事件が係属する裁判所所在地の弁護士会や司法協会が執り行っています。機関によって実務に違いがあり、謄写申請の際に弁護士から弁護士会や司法協会への委任状が必要な場合があります。
当地では弁護士会が謄写事務を執り行っていますが、基本的に委任状は不要ですので謄写申請書だけを提出しています。
確定記録の謄写申請委任状
確定記録の謄写については、多くの場合、委任状2通(依頼人から弁護士に対する委任状、及び弁護士から謄写人(弁護士会等)への委任状)が必要になります。
謄写申請書の提出先
申請書の提出先は、事件が係属する裁判所所在地の弁護士会や司法協会です。
遠隔地に謄写申請をする場合は、当該地の弁護士会や司法協会のホームページを閲覧してみましょう。多くの場合、謄写申請の方法や手数料について記載されており、事前の連絡が必要な場合もあります。説明をよく読みましょう。
それでも分からない場合は、事件の担当書記官に質問すれば問い合わせ先等を教えてもらえます。
おわりに
以上、文書送付嘱託と調査嘱託の違いと、申立手続きからその後の謄写申請の方法までについて解説しました。
迷いがちなポイントとして、これら二つの申立書は、裁判所だけでなく必ず相手方にも直送しなければならないことを覚えておきましょう。
覚えることがいっぱいあったけど、これで次回からはきちんと手続きできます。
一度覚えたならもう大丈夫ですね!