どうしよう!債権者がもれていたみたい・・・。
手続き中でも追加ってできるの?
債権者の取りこぼしはあってはならないことですが、時にはミスをしてしまうこともあります。気持ちを切り替えて、リカバリーに最善を尽くしましょう。
この記事では、個人再生の手続中に債権者一覧表の記載漏れに気づいた際の対処法を解説していきます。
手続中はいつでも債権者を追完できるのか?
残念ながら答えはNOです。
民事再生法には、届出の追完について以下の規定があります。
第九十五条 再生債権者がその責めに帰することができない事由によって債権届出期間内に届出をすることができなかった場合には、その事由が消滅した後一月以内に限り、その届出の追完をすることができる。
2 前項に定める届出の追完の期間は、伸長し、又は短縮することができない。
3 債権届出期間経過後に生じた再生債権については、その権利の発生した後一月の不変期間内に、届出をしなければならない。
4 第一項及び第三項の届出は、再生計画案を決議に付する旨の決定がされた後は、することができない。
5 第一項、第二項及び前項の規定は、再生債権者が、その責めに帰することができない事由によって、届け出た事項について他の再生債権者の利益を害すべき変更を加える場合について準用する。
出典:e-Govポータル 民事再生法95条
つまり、再生手続開始決定後には申立人から債権者を追加することはできず、書面による決議に付する決定/意見聴取決定後には債権者側からも追完できませんので、漏れがあった場合には、一般弁済期間中に上乗せして支払うことになってしまいます。
申立前に気をつけること
まず第一に、申立時に債権者の取りこぼしがないように気をつける事が肝要です。
以下のことを徹底して行えば、債権者の取りこぼしはかなり防ぐ事ができます。
- 依頼者への聞き取りを徹底し、依頼者に届いている債権者からの請求書や裁判所からの訴状などを全て提出してもらう。
- 依頼者の通帳の記載事項を細かくチェックし、個人間の送金についても確認をする。
- 債権者かどうか疑わしい相手には、とにかく受任の通知をする。(債権がない場合はないとの回答があります。)
受任の通知をしたけれど、回答自体が返ってこない場合は、念のためその会社(または個人)も債権者一覧表に記載します。(債権額ゼロ円とし、「異議の留保」欄には必ずチェックを入れること)
弁護士が債権者に受任の通知をしてから、債権者から債権届が提出されるまでは通常1ヶ月程度かかります。申立直前に新たな債権者が判明したけれど、申立について一刻を争う場合、債権者一覧表にはおおよその債権額を記載して提出すると言う方法があります。その際、「異議の留保」欄には必ずチェックを入れることを忘れないようにしましょう。
申立後から再生手続開始決定前まで
申立後から再生手続開始決定までは、制限なく債権者の追完が可能です。
債権者を追加する旨の上申書を提出し、さらに、訂正した債権者一覧表を提出します。
債権者追加の上申書
民事再生法には、債権者一覧表の記載の訂正や、再生債務者側からの再生債権者・再生債権の追加・削除に関する規定が存在しません。私のこれまでの実務経験では、上記の対応で問題が生じたことはありませんが、記載漏れが発覚した場合は速やかに裁判所へお問い合わせ下さい。
債権届出期間中
これまでに述べたように、再生手続開始決定が出された後では、再生債務者の方から債権者の追完をすることはできません。
しかし、この債権届出の期間中であれば、こちらから債権者に連絡をして、債権者の方から裁判所に債権届出をしてもらえば手続きに間に合わせることが可能です。
裁判所によっては、再生手続開始決定が出された後であっても、再生債務者代理人から裁判所に債権者追加の上申書を提出すれば、裁判所から債権者に通知をする扱いをしている場合があります。
まずは裁判所に問い合わせをして、どのような対応をするべきか確認しましょう。
債権者が金融機関や貸金業者などの場合
受任通知に再生手続開始決定書の写しを添付して郵送し、債権届を提出してもらうようお願いしましょう。
債権者が金融機関や貸金業者の場合は届出方法について心得ているはずですので、細かい指示は不要です。
債権者が親族や友人、知人などの場合
債権者が個人の場合は、受任通知と再生手続開始決定書の写しのほかに、債権届出書の書式や詳しい書き方の説明書を同封しましょう。依頼者から借入日や債権額等を正確に聞き取っている場合は、そっくり書き写して貰えばよい状態の見本を作成して添付しましょう。
なかには、裁判所のような公的機関への提出書類作成について苦手意識を持っている方もおられます。スムーズに届出をしてもらえるよう、必要であれば裁判所の住所と宛名を記入して郵便切手を貼付した封筒も添付するなどして最善を尽くしましょう。
*この届出書は名古屋地方裁判所の書式です。裁判所によって多少の違いはありますが、基本的には全国で通用します。
書面による決議に付する旨の決定または意見聴取決定前
債権届出期間に間に合わなかった場合でも、
- 小規模個人再生手続における再生計画案を書面決議に付する旨の決定がされる前
- 給与所得者等再生手続における意見聴取決定がされる前
であれば、債権届出の追完をすることができます。
ただし、そのためには、民事再生法95条に定められた条件を満たす必要があるので注意が必要です。
第九十五条 再生債権者がその責めに帰することができない事由によって債権届出期間内に届出をすることができなかった場合には、その事由が消滅した後一月以内に限り、その届出の追完をすることができる。
2 前項に定める届出の追完の期間は、伸長し、又は短縮することができない。
3 債権届出期間経過後に生じた再生債権については、その権利の発生した後一月の不変期間内に、届出をしなければならない。
4 第一項及び第三項の届出は、再生計画案を決議に付する旨の決定がされた後は、することができない。
5 第一項、第二項及び前項の規定は、再生債権者が、その責めに帰することができない事由によって、届け出た事項について他の再生債権者の利益を害すべき変更を加える場合について準用する。
出典:e-Govポータル 民事再生法95条
「再生債権者がその責めに帰すことができない事由」とは、例えば、債務者が転居先を連絡しなかった、債務者から個人再生手続を取ることを通知されなかったので債権者には知る由もなかった、などが挙げられます。
「その事由が消滅した後一ヶ月以内に限り」とありますので、この事例だと、債務者が個人再生手続を取ることを、債権者が知った時から一ヶ月以内に届出をしなければならないことになります。
しかし、債権者の事情がどうであれ、再生計画案を書面決議に付する旨の決定/意見聴取決定がされてしまっては、届出をすることはできません。
債権届出ができなかった場合はどうなるのか
再生計画案を書面決議に付する決定または意見聴取決定後に債権者漏れに気付いた場合、債権届出をすることはできません。
このような債権のことを無届債権といい、債務者と債権者のどちらに帰責事由(落ち度)があるのかによってその扱いには違いがあります。
債務者側に帰責事由がある場合
債務者側が債権者一覧表に記載することを忘れてしまい、債権届出もされなかった債権は、「債権認否」までに「自認債権」として取り扱うことで、再生債権者に加えることができます。
再生債務者等は、届出がされていない再生債権があることを知っている場合には、当該再生債権について、自認する内容その他最高裁判所規則で定める事項を第一項の認否書に記載しなければならない。
出典:e-Govポータル 民事再生法101条3項
これにより、自認債権も、再生計画で定められた返済条件・方法で返済することができますが、以下の点で届出債権とは取り扱いが異なることに注意が必要です。
- 自認債権には、再生計画案に対する議決権がない
- 自認債権は、再生計画における基準債権には含まれない(つまり、自認債権は、計画弁済総額の下限=最低弁済額の算定の基礎に含まれません)
特に、債務者にとっては、自認債権が基準債権に含まれないことで、返済総額で不利益を受けます。
例:債権総額500万円、最低弁済額100万円、返済期間3年のとき、
500万円全てをきちんと届出ていた場合 ・・・月々約27,777円を3年間の返済
500万円のうち100万円(免除率80%)を3年で返済すれば良いので、月々約27,777円
500万円のうち、無届の自認債権が50万円ある場合 ・・・月々約30,832円を3年間の返済
届出債権450万円のうち100万円(免除率78%)を3年で返済 月々約27,777円
自認債権50万円も届出債権と同条件(免除率78%)で3年間の返済 月々3,055円
このように、すべての債権者をきちんと届出債権として債権者一覧表に漏れなく記載していた場合よりも免除率が低下し、返済総額が増えてしまうことになるため、自認債権の額が多すぎるときには、再生計画の遂行可能性が疑われてしまいます。そして、その結果、再生計画が不認可となってしまうこともあります。
債権者側に帰責事由がある場合
債権者側に帰責事由がある場合、その無届債権は劣後化されます。具体的には、以下の扱いを受けることになります。
- 無届債権であっても、再生計画による権利の変更(免除)が生じる
- 無届債権の返済は、再生計画終了後に、再生計画と同条件でなされる
つまり、劣後化された無届債権の返済は、再生計画による弁済期間が終了した後(3年~5年後)に、再生計画と同じ条件(免除率・返済回数)で行えばよいということになります。(民事再生法232条3項)
「劣後化」とは、無届債権者の側から見ると、他の届出債権者よりも返済が後回しにされてしまうということです。
記載漏れが悪質な場合
うっかりミスをしまっていたのではなく、故意に債権者一覧表に一部の債権者を記載しなかったなど悪質なケースは、債権者平等の原則や手続きの公平に反し許されません。
再生計画は不認可となるか、すでに認可決定が確定していた場合でも取り消しになってしまいます。(民事再生法174条2項1号、189条)
親族や友人からの借り入れをひた隠しにしようとする依頼者もおられます。受任の際に、そのようなことがあると再生手続自体ができなくなり、結局は依頼者の不利益になるということをしっかり説明しましょう。
おわりに
以上、個人再生手続中の債権者の追完について解説しました。
債権者の記載漏れは再生計画の認可に多大な影響を与えます。速やかな対応を心がけましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!