個人再生における、太陽光発電システムローンの対処法について解説していきます。
個人再生手続を希望する依頼者のなかには、住宅に太陽光発電システムを設置し、そのローンを抱えている方もおられます。その場合はどのように対処すればいいのかについてご説明します。
太陽光発電システムのローン形態
太陽光発電システムのローン形態について、大きく分けて以下の3つのケースが考えられます。
- 自宅不動産に抵当権を設定されているケース
- 住宅ローンの使途に太陽光発電システムの設置費用が含まれているケース
- 無担保ローンであるケース
色んなケースがあるんですね。それぞれ対処方法が違うのでしょうか?
はい。それぞれのケースが抱える問題点と、その解決策について順番に見ていきましょう。
太陽光発電システムのローンについて、自宅不動産に抵当権を設定されている場合
個人再生手続において、住宅資金特別条項付の手続きを行う場合、法律上の要件として、住宅ローン以外の原因に基づく担保権が不動産に設定されていないことが前提となります(民事再生法198条1項)。
しかし、太陽光発電システムはかなり高額であることが多く、ほとんどの場合がローンを組んでの購入であり、ローン契約の際に、ローン会社により不動産に抵当権を設定されているケースがあります。
この場合は、個人再生申立前に、太陽光発電システムの債権者に弁済をして、抵当権を抹消しなければなりません。
具体的には、債権者の許可を得て親族等に第三者弁済をしてもらい、その親族等を太陽光発電システムの債権者に代わる債権者として債権者一覧表に記載します。その際の注意点は以下のとおりです。
- 親族等から直接債権者への支払を行う。(依頼者の口座に振り込みをして、依頼者から債権者に支払うということはしない。)
- 債権者から、親族宛の領収証を取得する。(但し書きは、依頼者のローン残金返済としてもらう。)
- 親族等には、個人再生の手続についてきちんと説明をして、他の一般債権者と同じ扱いになることを納得してもらう。
太陽光発電システムのローン残高が高額で、援助をしてくれる親族等がいない場合は、潔く住宅を手放し、破産申立をして生活を立て直すほかありません。
太陽光発電システムの購入・設置費用が住宅ローンに組み込まれている場合
太陽光発電システムの購入・設置費用が住宅ローンに含まれている場合、そのローンが住宅資金特別条項の対象になるのかどうかということが争点になります。
住宅資金特別条項は、リフォームローンも対象となりますが、太陽光発電システムの設置費用が「リフォーム」と言えるかどうかというのは個々の事情によります。「リフォーム」と解することもできますし、太陽光発電システムがなくても電気の供給は可能であることから「住宅の改良に必要な資金」には含まれないと考えることもできます。
借入金の大半が住宅購入資金に充てられていれば,住宅資金特別条項が認められる余地もあると思われますので、申立前に裁判所に問い合わせをしてみるのが最善策です。
申立前に裁判所からの明確な回答が得られない場合は、個人再生の申立をしても住宅資金特別条項が認められず、最終的に破産をして家を手放すことになってしまうかもしれないことを覚悟のうえで申立をするかどうかを依頼者に判断してもらうほかありません。
太陽光発電システムを無担保のローンで購入・設置している場合
無担保ローンの場合は、そもそも抵当権が不動産に設定されていないので、住宅資金特別条項の利用については問題がありません。しかし、所有権留保という別の問題点が存在します。
無担保ローンの問題点
所有権留保に起因する問題は、
所有権留保により太陽光発電システムが引き上げられてしまう点
です。
さらに、この問題を解決するために債権者との間で別除権協定を締結すると、
再生計画案に基づく返済の他に支払をしなければならなくなり、返済計画の履行可能性が危ぶまれる
という新たな問題が発生します。
また、別除権を行使するには対抗要件を具備する必要があります(平成22年6月4日最高裁判例:再生開始の時点で所有者として登録されていない限り、留保所有権を別除権として行使することは許されない)ので、太陽光発電システムの債権が別除権付債権とならない可能性も考えられます。
別除権付債権とならない場合、太陽光発電システムの価値を清算価値に上乗せしなければならなくなる可能性があり、場合によっては、数百万単位の上乗せになる可能性も考えられます。そうなると、太陽光発電システムの価値の上乗せによって高額になった清算価値が最低弁済額となってしまい、再生計画の履行可能性が危ぶまれるということになります。
問題を解決するには
問題が山積みですね。解決する方法はあるのでしょうか?
これらの問題を全て解決するには、
- 別除権付債権とせず(ほかの再生債権と同様に減額対象となる)、
- さらに、債権者から「引き揚げは行わない」という確約をとり、
- 限りなく低い査定価格の証明書を取得する
ことが必要です。
つまり、債権者に所有権を放棄してもらい、さらに、評価額が限りなく低い査定書を取得するのです。
かなりこちらに都合のいい話ですが、太陽光発電システムを回収するには、大掛かりな取り外し工事が必要なことに加え、取り外し後の輸送にも多額の費用がかかります。これらのコストと、回収した太陽光パネルを中古として再販した時に得られる利益を比較した際に、債権者が、「設備を回収して中古で売っても儲からないので引き揚げるメリットがほとんどなく、再生手続によって減額されたとしても、少しでも返済してもらえる方がましである。」と考えて、同意してもらえる場合もあるのではないかと考えられます。
債権者の判断次第ですので断言することはできませんが、太陽光発電設備が回収されない可能性もゼロではないとお考えください。
当事務所では、実際に解決した事例があります。以下、具体的な手続についてご説明します。
解決の手順
受任通知を発送後、債権会社の担当者に連絡をして、太陽光発電システムについて所有権の放棄をしてもらうようにお願いします。あるいは、受任通知にその旨記載し、所有権放棄の陳述書を同封してもいいでしょう。
債権者の内諾を貰えたら、実際に所有権放棄の陳述書を郵送し、署名捺印してもらいます。
このとき、債権調査票と、(債務者の手元にない場合は)ローン契約書も忘れずに送ってもらいましょう。
所有権放棄陳述書
業者に依頼して、評価額が限りなく低い査定書を取得します。
裁判所へ個人再生の申立を行う際に、太陽光発電システムの債権者が所有権を放棄した旨の上申書も一緒に提出します。
上申書には、添付書類として「所有権放棄の陳述書」と「査定書(または見積書)」を付けます。
債権者一覧表には、一般債権として記載します
所有権が放棄されたので、別除権の項目に記載する必要はありません。
「STEP4」までの手順により、太陽光発電システムに関する問題は無事解消されましたので、再生手続を順調に進めて、再生計画の認可決定を目指しましょう。
おわりに
以上、個人再生における、太陽光発電システムローンの対処法について解説しました。
住宅メーカーの推奨によって太陽光発電システムを設置する方は多いのではないかと思います。住宅を手放すことなく、個人再生手続を行う方法がないかしっかり検討しましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!