家事事件の委任状と双方代理について解説していきます。
家庭裁判所に係属する事件は、大きく分けて家事事件と人事訴訟の2種類に分類されます。このふたつでは、使用する委任状の書式が異なります。今回は、家事事件の委任状に加えて双方代理についても解説していきます。
家庭裁判所に係属する事件の種類について
家庭裁判所で取り扱われる事件は、大きく分けて、家事事件・人事訴訟事件の2つに分類されます。そして、家事事件はさらに家事調停事件・家事審判事件の2つに分けられます。
家事事件
家事事件はさらに家事調停事件・家事審判事件の2つに分類されます。また、履行勧告など、これらに付随する手続きも取り扱います。
家事調停事件(解説は最高裁サイトからの抜粋です)
家事調停事件は、家事事件手続法別表第2に掲げる事項に関する調停(別表第2調停)、特殊調停、一般調停とに分かれています。
別表第2調停
親権者の変更、養育費の請求、婚姻費用の分担、遺産分割などがあります。これらの事件は、第一次的には当事者間の話合いによる自主的な解決が期待され、主に調停によって扱われますが、審判として扱うこともできます。これらの事件が最初に調停として申し立てられ、話合いがつかずに調停が成立しなかった場合には、審判手続に移り、審判によって結論が示されることになります。また、審判として申立てをしても、裁判官がまず話合いによって解決を図るほうが良いと判断した場合には、審判ではなく調停による解決を試みることがあります。
特殊調停
協議離婚の無効確認、親子関係の不存在確認、嫡出否認、認知などがあります。これらは、本来は人事訴訟で解決すべき事項とされていますが、家事調停の手続において、当事者間に審判を受けることについて合意が成立しており、申立てに係る原因事実について当事者間に争いがない場合には、家庭裁判所が必要な事実の調査をした上で、その合意が正当と認めるときには、合意に相当する審判が行われます。
一般調停
家庭に関する紛争等の事件のうち、別表第2調停及び特殊調停を除いた事件をいい、離婚や夫婦関係の円満調整などが代表的な例としてあげられます。
家事審判事件(解説は最高裁サイトからの抜粋です)
審判事件は、家事事件手続法別表第1に掲げる事項に関する事件(別表第1事件)と家事事件手続法別表第2に掲げる事項に関する事件(別表第2事件)に分かれています。
別表第1事件
別表第1事件には、子の氏の変更許可、相続放棄、名の変更の許可、後見人の選任、養子縁組の許可などがあります。これらの事件は、公益に関するた、家庭裁判所が国家の後見的な立場から関与するものです。また、これらは一般に当事者が対立して争う性質の事件ではないことから、当事者間の合意による解決は考えられず、専ら審判のみによって扱われます。
別表第2事件
別表第2事件には、親権者の変更、養育料の請求、婚姻費用の分担、遺産分割などがあります。これらの事件は当事者間に争いのある事件であることから、第一次的には当事者間の話合いによる自主的な解決が期待され、審判によるほか、調停でも扱われます。これらの事件は、通常最初に調停として申し立てられ、話合いがつかずに調停が成立しなかった場合には、審判手続に移り、審判によって結論が示されることになります。また、当事者が審判を申し立てても、裁判官がまず話合いによって解決を図る方がよいと判断した場合に、調停による解決を試みることもできることになっています。
人事訴訟事件
離婚・認知など、夫婦間や親子間の関係についての争い(=身分関係上の紛争)を解決する訴訟手続きを、「人事訴訟事件」といいます。
人事訴訟事件の代表的なものとして、離婚請求事件や認知請求事件が挙げられますが、これ以外にも、例えば、離婚後の親権者を求める訴訟や、財産分与や子供の養育費請求、年金分割の割合などについても離婚と同時に決めてもらえるよう訴えることもできます。
人事訴訟は民事訴訟の一種ですので、基本的には民事訴訟の審理手続と同じ手続きで行われます。
第2条 この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
1 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
2 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
3 養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え
出典:e-Govポータル 人事訴訟法第2条
なお、人事訴訟には「調停前置主義」というものがあり、家庭裁判所で調停を行うことができる事件については、訴えを提起するより、まず、家事調停を申し立てなければならないとされています(家事事件手続法第257条)。
家事事件と人事訴訟事件の違い
家事事件と人事訴訟事件では、主に以下の点が異なることに注意しましょう。
家事事件 | 人事訴訟事件 | |
当事者の呼び方 | 申立人・相手方 | 原告・被告 |
副本 | 不要(注) | 必要 |
記録の謄写 | 裁判所の許可が必要 | 裁判所の許可は不要 |
(注)家事事件でも、申立書については相手方にも送達する扱いにしている裁判所が多いです。迷ったら、申立前に裁判所に問い合わせましょう。
家事事件の委任状
家事事件(調停・審判)の場合は、家事事件用の委任状書式を用います。
家庭裁判所に係属する事件であっても、人事訴訟は訴訟委任状の書式を用います。特に、以下の事件は間違えやすいので気を付けて下さい。
- 離婚調停事件 ・・・ 家事事件用の委任状
- 離婚請求事件 ・・・ 民事事件用の訴訟委任状
同じ離婚関係の事件でも、調停は家事事件用、訴訟は民事事件用の委任状を用います。
どちらか迷ったときは、当事者が「申立人/相手方」の場合は家事事件、「原告/被告」の場合は民事事件と考えて差し支えないと思います。
家事事件委任状
- この書式は全国共通です。
- 各地の弁護士会のサイトなどからダウンロードも可能です。
委任状の基本についておさらいしたい場合はこちら
双方代理承諾書
双方代理とは
双方代理とは、同一人が同一の法律行為について、当事者双方の代理人になることをいい、双方代理による法律行為は、代理権を有しない者がした行為(=無権代理行為)となります(民法第108条)。そして、無権代理人の行った法律行為は、本人が追認しない限り、無効です(民法第113条1項)。
双方代理が禁止されるのは、どちらか一方の当事者には有利であるが、もう一方の当事者にとっては不利な契約を結ぶなどの恐れがあるからです。
これを「利益相反」といいます。
弁護士が自治体等での法律相談を受け持つ場合、事前に相談者のリストが渡されて、「利益相反がないかご確認下さい」と言われますので、皆さんにも聞き覚えのある言葉ではないでしょうか。
このように、民法は基本的には双方代理を禁止していますが、例外があり、「本人があらかじめ許諾した行為」の場合は、双方代理を許されています(民法第108条第2条後段)。
また、どちらか一方の当事者が不当に不利益を受ける危険性がない場合には双方代理を認めてもよいということになりますので、両方の当事者が事前に了承している場合だけでなく、あらかじめ決められた行為を形式に遂行する場合や、債務の履行についても同様に双方代理が認められます。
第108条 (自己契約及び双方代理等)
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
出典:e-Govポータル 民法第108条
双方代理承諾書
前項で解説したとおり、基本的には、双方代理は禁止されています。
ところが、遺産分割協議に関連する手続きにおいては、複数の当事者(相続人)がひとりの弁護士に委任する場合があります。よくある例としては、被相続人の長男と、長男以外の兄弟姉妹2人が意見を異にして争っている場合に、長男以外の2人から依頼を受けるなどのケースです。この2人も相続人であり、遺産分割の観点から言うと利害関係はそれぞれ異なっていますので、原則としてはひとりの弁護士が2人の代理をすることは、双方代理となりますので、できません。
しかし、2人の相続人に双方代理について説明をしたうえで、相続人自身の判断により同じ弁護士に委任をすることを決断した場合は、ひとりの弁護士が複数の相続人の代理をすることが認められています。
そして、ひとりの代理人に複数の相続人が委任をする場合は、委任者全員が、それぞれ双方代理を承諾する旨の書面に署名し、家庭裁判所に提出する必要があります。
双方代理承諾書
依頼人全員から同時に委任を受けて提出する場合
依頼者全員から、委任状と双方代理承諾書を取り付けます。
こちらが申立人側の場合は申立書と一緒に原本を提出します。相手方側の場合は、速やかに委任状と双方代理承諾書の原本を提出します。
こちらが申立人/相手方どちらの側にせよ、これらの書類は原本を提出しなければなりませんので、裁判所に直接持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。
間違えてFAXで送信しないようにね!
事件の進行中に、新たな依頼者から委任を受けて提出する場合
新たに受任をする依頼者から、委任状と双方代理承諾書を取り付けます。
それだけではなく、既に受任をしている依頼者からも双方代理承諾書を取り付けます。
そして、家庭裁判所に委任状と双方代理承諾書の原本を提出します。
既に受任をしている依頼者からの双方代理承諾書の取り付けは、うっかりして忘れてしまうことがあります。気を付けましょう。
おわりに
以上、家事事件の委任状と双方代理について解説しました。
家事事件と人事訴訟事件を混同して、間違った委任状書式を使用しないように注意しましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!