不動産仮差押命令申立事件の取り下げについて解説していきます。
取り下げについては、書籍などではさらっと触れられている程度のことがほとんどですので、意外と小さなことに悩むのではないでしょうか。
不動産仮差押の取り下げ
申立ての詳しい手続きはこちら
申立ての手続きについては、以前に別の記事で詳しくご説明したとおりですが、不動産仮差押は、「仮」の手続ですので、最終的には何らかの後始末をすることが必要です。
実務上は、次のいずれかに該当したときに、取り下げをすることによって仮差押の手続を終了させる場合がほとんどです。
- 債務者との間で和解や示談が成立し、保全処分を続ける必要がなくなった。
- 仮差押から本執行に移行し、債権を(全部または一部)取り立てた。
※本執行に移行して不動産競売を行ったときは、請求債権全てを回収することができなかった場合でも(売却価格が低かったなど)、仮差押登記が抹消されます。
請求債権を回収してから取り下げをするということですね!
そのとおりです。また、普通は担保の取消を先に行ってから取り下げをしますが、例外として、権利行使催告を根拠として担保取消をする場合は、先に保全事件の取り下げをする必要があります。
担保の取消手続きはこちら
なお、債権者は、いつでも債務者の同意なしに民事保全申立の取り下げができます。
保全命令の申立てを取り下げるには、保全異議又は保全取消しの申立てがあった後においても、債務者の同意を得ることを要しない。
出典:e-Govポータル 民事保全法第18条
取り下げの方法
取り下げに必要な書類は、以下のどちらの場合に該当するのかによって異なります。
- 仮差押登記の抹消登記が必要な場合
- (すでに抹消されているので)仮差押登記の抹消登記が不要な場合
①の場合は、裁判所から法務局へ仮差押登記の抹消登記の嘱託がなされますので、そのための書類が必要となります。
また、申立から長期間が経過している場合は、追加で必要となる書類などがあります。その他、特殊な事例は、「こんな時は」を参照してください。
抹消登記が必要な場合
必要書類
- 取下書
- 正本1通(当事者目録、物件目録を合綴したもの)
- 副本(正本と同様のもの)×債務者の数
- ページ数を記入した場合は、契印は不要です。
- 当事者の氏名や住所等に変更がない場合は、申立時に使用した目録と同じものを使用します。
- 登記権利者義務者目録(法務局用)
- 法務局1箇所につき 2通
- 債権者が登記義務者、債務者が登記権利者になります。
- 「登記権利者」には不動産登記記録上の現所有者を記入します(保全決定の債務者と一致しないこともあります。)。
- 「登記義務者」には保全決定の債権者を記入します。
- 登記権利者及び登記義務者の住所・氏名の表記は、不動産登記記録上の表記に合わせます(現在の住所や氏名と一致しないこともあります。)。
- 物件目録(法務局用)
- 法務局1箇所につき2通
- 取下書に合綴したものと同じもの(ページ数は記入しません。)。
- 郵便切手
- 法務局1箇所につき 529円×2組
- 債務者の数×84円(94円)
- 取下書の枚数が3枚以内の場合、84円
- 4~9枚の場合、94円
- 裁判所により必要な金種・枚数が異なる場合があります。
- 登録免許税(収入印紙)
- 物件1個(区分所有建物につき、敷地権は1筆につき1個と数える)につき1,000円。
- 但し、物件が法務局1箇所につき20筆以上の場合については定額20,000円。
- 不動産全部事項証明書(交付日は1か月以内のもの)
保全処分発令後3年を経過した事件、及び、登記に変更がある場合に必要です。
取下書
- この取下書を1ページ目として、2ページ目に当事者目録、3ページ目に物件目録を綴ります(下部にページ番号を入れます。)。
抹消登記が不要な場合
競売などにより、既に仮差押登記が抹消されている場合です。
必要書類
- 取下書
- 正本1通(当事者目録、物件目録を合綴したもの)
- 副本(正本と同様のもの)×債務者の数
- ページ数を記入した場合は、契印は不要です。
- 当事者の氏名や住所等に変更がない場合は、申立時に使用した目録と同じものを使用します。
- 郵便切手
- 債務者の数×84円
- 取下書の枚数が3枚以内の場合は84円、4~9枚の場合は94円
- 不動産全部事項証明書(交付日は1か月以内のもの)
取下書
- この取下書を1頁目として、2頁目に当事者目録、3頁目に物件目録を綴ります(下部にページ番号を入れます。)。
- 仮差押登記が抹消済みであることを記入します。
取り下げの手順
取下書と必要書類一式を、保全命令を発令した裁判所に提出します。
債務者にも、裁判所から取下書の副本が郵送されます。
仮差押登記の抹消登記が必要な場合は、裁判所から法務局への抹消登記嘱託により行われます。
なお、抹消登記が完了しても、裁判所や法務局からは特に連絡はありません。登記事項証明書を取得するなどして手続きがきちんとできているかを確認しましょう。
こんな時は
取り下げをするにあたって、申立時とは事情が異なっている場合に、どうすれば良いのか悩みがちな事柄についてまとめました。
- 当事者の氏名(商号)や住所(本店所在地)に変更がある場合はどうしたらいいですか。
-
保全決定時から現在までのつながりがわかる資料を提出します。例:住民票(除票)、戸籍の附票、商業登記事項証明書、閉鎖事項証明書(いずれも交付日が1か月以内のもの)
また、当事者目録には,現在の住所(本店所在地)、氏名(名称)を記入したうえで、かっこ書きで仮差押決定時の氏名(名称)を記入します。
(例1)自然人(個人)の場合
〒103-○○○○ 東京都○○区○○町○丁目○番○号
(仮差押決定時の住所 〒〇〇〇-〇〇〇〇 千葉県〇〇市・・・)
債権者 東京 花子
(仮差押決定時の氏名 千葉 花子)
(例2)法人の場合
〒103-○○○○ 東京都○○区○○町○丁目○番○号
債権者 東京花子株式会社
(仮差押決定時の商号 千葉花子株式会社)
上記代表者代表取締役 千葉 花子
- 当事者の代表者に変更がある場合はどうしたらいいですか。
-
現在の代表者の資格を証明する書類を提出します。例:資格証明書、商業登記事項証明書などです(交付日が1か月以内のもの。)。
また、当事者目録には現在の代表者を記入します。
- 申立から長期間が経過している場合に、追加で提出しなければならない書類や、特別な手続きがありますか。
-
保全決定からの経過年数によって、必要とされる書類が異なります。
- 3年以上経過した場合
- 不動産登記事項証明書(全部証明)(交付日が1か月以内のもの)
- 5年以上経過した場合(事件記録は、保全命令決定原本以外廃棄されています。)
- 本人による取下げの場合は、債権者の印鑑証明書(交付日が1か月以内のもの)
- 代理人による取下げの場合は、委任状
- 当事者の住民票又は戸籍の附票、商業登記事項証明書(いずれも交付日が1か月以内のもの)
- 不動産登記事項証明書(全部証明)(交付日が1か月以内のもの)
- 10年以上経過した場合(事件記録は、保全命令決定原本も含め、全部廃棄されています。)
- 上記②の書類
- 保全命令決定正本とその写し(決定正本は、照合の上返却されます。)
- 保全命令決定正本を紛失している場合
- 紛失等の理由を記載した上申書を提出します。その際、上申書には、取下書の物件目録記載の不動産のほかに仮差押物件がないことも記載します。
- 3年以上経過した場合
おわりに
以上、不動産仮差押命令申立事件の取り下げについて解説しました。
本案事件解決に係る処理や担保取消手続きまでは慌ただしく神経を使いますので、その後の(緊急性のない)取り下げを後回しにしているうちに、忘れてしまわないように気をつけましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!