民事保全事件の担保取消手続き

民事保全事件における、担保取消手続きについて具体的に解説していきます。

りか

担保取消手続きは、非常に専門的な分野ですので、裁判所の指示を仰ぎながら実際の手続きを進めることになります。個々の事件や裁判所によって運用が異なる場合もありますが、手続き全体の流れについて、基本的な知識を頭に入れておきましょう。
なお、この記事では、私たちにとって最も身近である、民事保全事件における担保取消手続きを例にご説明していきます。

目次

担保取消申立とは

民事訴訟では、民事保全事件(仮差押・仮処分)や強制執行等に関連して仮の手続きを行う場合に、万が一、その手続きに誤りがあって相手方に損害が生じた際に、その損害を保証することができるように裁判所の命令で担保を提供することがあります。

しかしながら、実務上、相手に損害が生じるケースはほとんどなく、本案事件が終了し、担保を提供しておく必要がなくなった段階で、その担保を提供した者に返還されるのが普通です。

このように、担保を提供しておく必要がなくなった場合に、その担保の返還を求める申立てを行うことを、担保取消申立といいます。

民事保全事件が取下げなどによって終了しただけでは、担保の取戻しをすることはできません。必ず、別途、担保取消の申立てをする必要があります。

担保取消の申立事由と必要書類

担保取消申立事由と共通必要書類

前項でご説明したとおり、提供した担保は、本案事件や民事保全事件が終了すれば自動的に返還されるわけではなく、こちらから裁判所に対して担保取消の申立てをする必要があります。

そして、担保取消申立は、本案事件がどのように終了したかによって、その手続きや必要書類に違いがあります。

通常、本案事件は以下の3つの理由により終了することがほとんどであり、それによって、民事訴訟法第79条1項から第3項の規定のうちいずれかの根拠に基づいて担保取消申立を行うことになります。

  • 本案訴訟で勝訴判決(全面勝訴)が確定する。   ⇨ ① 担保請求事由の消滅(79条1項)
  • 本案訴訟または訴訟外で相手方と和解が成立する。 ⇨ ② 担保権利者の同意(79条2項)
  • 本案訴訟未提起・取下げ、又は敗訴判決が確定する。⇨ ③ 権利行使催告(79条3項)
りか

民事訴訟法第79条の規定のうち、どれかに該当しなければ担保取消申立てをすることはできません。

1 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。
3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。
4 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。

出典:e-Govポータル 民事訴訟法第79条

なんだか難しいですね。終了理由から、何を根拠として担保取消申立てをするのかを見極めて、さらにそれぞれの必要書類まで・・・。混乱します。

りか

あまり難しく考えなくても大丈夫ですよ。基本的な手続きや必要書類は共通していて、それぞれの申立事由によってさらに必要な手続きや書類がプラスされると考えて下さい。また、申立事由が間違っていたり、書類が不足していた場合でも、裁判所から補正が促されますので心配いりません。

全ての申立事由に共通で必要な書類

  • 担保取消の申立書
    • 1通
    • 手数料(収入印紙)は不要です。
  • 供託(支払保証委託契約)原因消滅証明申請書
    • 正本と副本 各1通
    • 「供託書」を別紙引用している場合は、「供託書」の写しを合綴し、契印を押します。
    • 証明書発行手数料として、収入印紙150円
  • 同供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書の受書
    • 1通(日付は空欄にしておきます。)
  • 切手を貼付した返送用封筒
    • 供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書の郵便交付を希望する場合に提出します。

担保取消申立書

担保取消申立書

供託原因消滅証明申請書

供託原因消滅証明申請書
同じものを2通作成して、2通とも裁判所に提出します。

供託原因消滅証明書受書

供託原因消滅証明書受書

担保請求事由の消滅(民事保全法4条2項民事訴訟法第79条1項)

債務者に損害が発生する可能性がなくなり、担保を提供しておく事由が消滅した場合です。

たとえば、本案訴訟で全部勝訴の判決が確定したり、勝訴的和解が成立したり、債務者が債権者の請求を全部認諾した場合などです。

この場合、担保を立てておく必要がありませんので、担保取消申立てをすることができます。

りか

「私が勝ったのだから担保を提供している必要は無くなりましたので、預けた担保を返して下さい」ということです。

共通書類に加えて、以下の書類が必要です

  • 全部勝訴の判決書など、事由が消滅したことを証明する文書
    • 判決書正本などとその写し
    • 上訴審判決がある場合は、一審から上訴審までのすべての判決書が必要です。
  • 同判決確定証明書(写しは不可)
  • 郵便切手
    • 1089円×被申立人数

判決確定証明書の申請方法はこちら

担保権利者(相手方)の同意(民事保全法4条2項民事訴訟法第79条2項)

裁判の途中で和解になり、相手方が担保取消に同意した場合などです。

債務者が担保の取り消しに同意していますので、いつでも担保取消申立てをすることができます。

りか

「和解によって全て解決したのだから、担保も返して下さい」ということです。

共通書類に加えて、以下の書類が必要です

  1. 同意書による同意の場合
    • 同意書(日付入り)
    • 被申立人の印鑑証明書 (被申立人が同意書を作成する場合)
    • 委任状 (代理人が同意書を作成する場合)
      • 被申立人の代理人が同意をする場合、委任事項は ①担保取消しの同意、②担保取消決定正本の受領、 ③同決定に対する即時抗告権の放棄 となります。
    • 被申立人の「担保取消決定正本の受書」(日付空欄のもの)
    • 被申立人の「即時抗告権放棄書」(日付空欄のもの)
    • 担保取消決定正本の受書がない場合は、郵便切手84円×被申立人数
  2. 裁判上の和解による同意の場合
    • 和解調書正本とその写し
    • 郵便切手(84円×被申立人数)

担保取消決定正本の受書

担保取消決定正本受書

即時抗告権放棄書

即時抗告権放棄書

権利行使催告による担保取消(民事保全法4条2項民事訴訟法第79条3項)   

担保取消しについて担保権利者の同意があったとみなされる場合です。

たとえば、本案訴訟で債権者の全部または一部敗訴の判決が確定したり、途中で訴訟を取り下げたり、訴訟提起しなかった場合などです。

裁判所から、担保権利者(債務者)に対して、一定期間内に損害賠償請求権を行使すべき旨を催告(権利行使催告)してもらいます。

この権利行使催告期間は、裁判所ごとに定められ、通常は2週間程度です。それに対する担保権利者(債務者)側からの権利行使届出期間は約1週間程度で定められます。

そして、担保権利者(債務者)がその期間内に権利を行使しなかった場合は、担保取消しに同意したものとみなされ、裁判所が担保取消決定をします。

りか

「裁判に負けてしまったので、損害があれば弁償します、請求して下さい」と申し出て、もし相手が請求しない場合は、「損害を請求しないのであれば担保は返して下さい」ということです。

この「権利行使催告による担保取消」を行う場合は、本案訴訟が確定(未提起の場合を除く)していることに加え、担保取消申立に先立って保全事件の取り下げをすることが必要となります。

※ この場合、保全事件の取下書と担保取消申立書は一緒に提出して大丈夫です。裁判所の方で順番に処理されます。

取り下げの手順はこちら

共通書類に加えて、以下の書類が必要です

  • 本案訴訟を提起している場合は、訴訟が終了していることを示す書類
    • 判決正本とその写し及び同判決確定証明書
    • 訴状の写しを添付した訴えの取下証明書
  • 本案訴訟を提起していない場合は、その旨を申立書に記載する。
  • 郵便切手
    • 1089円×2×被申立人数

訴えの取下証明書

訴えの取下証明書
1枚目
訴えの取下証明書
2枚目
  • 提出先は、当該事件記録を保管している裁判所です。
  • 証明書発行手数料として収入印紙150円を添付します。
  • この書式のとおり、2枚とも裁判所に提出すると、1枚目の空欄に証明印が押印され、証明書として交付されます。
スポンサーリンク

担保取消申立の手順

担保取消申立は、以下の流れで進んでいきます。

STEP
裁判所への申立て

担保取消事由に応じて、申立書および疎明資料を提出します。

管轄は、担保提供を命じた裁判所です。本案訴訟の係属裁判所ではありませんので注意して下さい。

STEP
裁判所の担保取消決定

裁判所が申立書や添付書類を審査し、申立てを認める場合には担保取消決定がなされます。この決定正本は相手方にも送達されます。

りか

裁判所から連絡がありますので、決定正本を取りに行きましょう。このとき、申立時に提出していた判決等の正本も返還されます。

なお、「権利行使催告による担保取消」の場合は、申立のあとに裁判所から相手方へ権利行使催告書が送達され、催告期間が経過した後に担保取消決定がなされます。

※ この権利行使催告期間の日程等は、申立人側には特に通知はされません。裁判所から担保取消決定の連絡があるまで待ちましょう。

STEP
担保取消決定の確定

裁判所の担保取消決定に対して、一定の期間内に相手方からの即時抗告(異議申立)がなければ、担保取消決定が確定します。

相手方の異議申立期間は、決定正本を受け取ってから1週間です。

そして、裁判所から、「供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書」が交付されます。

担保取消申立をしてから、供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書が交付されるまでにかかる日数の目安は以下のとおりです。

  1. 民訴法79条2項(権利者の同意)・・・・約1週間
  2. 民訴法79条1項(請求事由の消滅)・・・約1か月
  3. 民訴法79条3項(権利行使催告)・・・・約2か月
STEP
担保の取戻し

裁判所から交付された「供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書」を用いて、法務局で供託金を取り戻したり、銀行との契約を解消して預金を取り戻します。

担保の取戻し

担保取消決定が確定し、供託供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書が交付されたら、いよいよ、担保として差し入れていた現金を取り戻す手続きを行います。

供託によって担保を提供していた場合 

供託により担保提供をしていた場合は、供託をした法務局で払渡手続きを行います。

供託の払渡手続きには、「取戻し」と「還付」の2種類があります。

りか

「取戻し」は、供託者が供託金を取り戻すことをいい、「還付」は、供託をされた被供託者が供託金を受け取ることをいいます。

では、これから行うのは、「取戻し」のほうですね!

法務局に持参するもの 

  • 供託金払渡請求書
  • 委任状
    • 払渡請求用の委任状
    • 供託時の委任状(供託官の確認済みのもの)
  • 依頼者が法人の場合は、資格証明書
    • 交付から3ヵ月以内のもの。代表者事項証明書で大丈夫です。
  • 所属弁護士会発行の事務員証
  • 自分の身分証明書(運転免許証など。念のため持参しましょう。)

担保取消決定正本も持参しておくと安心です(必須ではありません)。

払渡請求用の委任状の書き方はこちら

法律事務所の補助者等が使者として来庁する場合、弁護士から補助者への委任状は必要ありません。

供託金払渡請求書の書き方

供託金払渡請求書 担保取戻

※ 出典:法務局

払渡請求書記入の際の注意事項

  • 記入するのは赤字の部分のみです。
  • 請求者(依頼者)の押印は不要です。
  • 振込先を事務所の預かり金口座にすることも可能です。
  • 供託書記載欄の被供託者住所(本店所在地)・氏名(法人名)に変更がある場合は,住民票や戸籍抄本(または履歴事項証明書)等の提出が必要です。
    • その場合は、依頼者に、払渡請求用委任状を書き直してもらう必要があります。
    • 払渡請求用委任状には変更後の住所と氏名を記入し、供託時の委任状に押した印鑑と同一の印鑑を押してもらいます。
  • その他、一般注意事項は下記のボタンからダウンロードしてご確認下さい。

※出典:法務局

支払保証委託契約によって担保を提供していた場合

支払保証委託契約による担保提供とは、債務者に対し損害賠償の必要が生じた場合に、債権者等の代わりに、支払保証先の銀行等がその支払をするようあらかじめ保証委託をする契約のことです。

通常は、銀行に担保と同額の定期預金を積み、銀行はそれに質権を設定したうえで支払保証委託契約をします。

法テラスの援助を受けて仮差押申立を行う場合には、この支払保証委託契約による担保提供をすることになります

(参考)法テラスを利用した際の支払保証委託契約解約手続

STEP
法テラスへ連絡し、必要書類の交付を受ける

法テラスへ、担保取消申立を行うことを連絡します。そうすると、法テラスから、担保取消申立の際に必要な書類が交付されます。

  1. 地方事務所長等の支払い委託契約等の権限に関する規程
  2. 地方事務所長等の資格証明書
  3. 地方事務所長等から受任者宛の委任状
  4. 支払保証委託契約原因消滅証明申請書2通
  5. 支払保証委託契約解約の流れ
STEP
裁判所への担保取消申立て

申立ての際に、法テラスから交付された次の書類もあわせて提出します。

  1. 地方事務所長の支払い委託契約等の権限に関する規程
  2. 地方事務所長の資格証明書
  3. 地方事務所長等から受任者宛の委任状
  4. 支払保証委託契約原因消滅証明申請書2通
りか

担保取消申立書の書き方は以下のとおりです。

担保取消申立書(支払保証委託契約)

担保取消申立書 支払保証委託契約
STEP
裁判所からの担保取消決定および証明書の交付

担保取消決定がなされ、即時抗告期間が経過したら、 裁判所より、支払保証委託契約原因消滅証明書(同申請書に裁判所が証明する旨が記載されたもの)が交付されます。

STEP
法テラスへ裁判所からの証明書等を提出する

法テラスへ、以下の書類を提出します。

  • 支払保証委託契約原因消滅証明書
  • 担保取消決定正本または謄本

あとは、法テラスと銀行の間で支払保証委託契約解消の手続きが行われます。

おわりに

以上、担保取消手続きの一連の流れについて解説しました。

裁判所に申立てをしてから、実際に現金を取り戻すまでは意外と時間を要します。担保取消申立てができる状態になったら、速やかに準備をして手続きを行いましょう。

りか

今日も笑顔でがんばりましょう!

      

スポンサーリンク
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次