個人再生において、再生債権が確定するまでに必要とされる手続きについて具体的に解説していきます。
再生債権額は、申立時に作成した債権者一覧表記載の金額で確定するわけではありません。個人再生では、再生計画に基づく弁済額を確定させるために、手続開始決定後に債権調査手続が行われます。
再生債権額確定までの流れ
申立時に作成した再生債権者一覧表記載の債権額は、あくまで申立時点での仮の金額です。
再生債権額は、再生手続開始決定後、改めて債権者から債権届出がなされ、それに対する異議の申述など、様々な債権調査手続きを経て確定されます。
再生債権額は、以下の流れで確定されます。
債権者から返送された債権調査票をもとに、申立書に添付する債権者一覧表を作成します。
再生一覧表一覧表の作成方法についてはこちら
申立てから開始決定までの間に、新たな債権者が判明した場合や、代位弁済通知・債権譲渡通知を受け取った場合は、速やかに裁判所に届出を行います。
債権者が裁判所へ債権額を届け出る期限を指します。
裁判所は、再生手続開始の決定と同時に、再生債権の届出をすべき期間を定めなければならない(民事再生法34条1項)とされており、その期間は、再生手続開始の決定の日から2週間以上1月以下の間で定められます(民事再生規則116条2項1号および138条2項)。
なお、この債権届出は義務ではありませんので、再生債権者が異議の届出をしなかった場合でも、債権者一覧表に記載がある債権については、その債権者一覧表に記載されている内容・金額の債権届出がなされたものとみなすことができるとされています(民事再生法225条および244条)。
そして、届出があった再生債権については、裁判所から債務者側に債権届出書の写しが交付されます。
こちらは、この債権届出書を確認して、異議を述べるかどうかを検討します。
一般異議申述期間で異議を述べられた債権者が、裁判所に再生債権評価の申立をすることができる期間を指します。この期間は、異議申述期間の末日から3週間です(民事再生法227条1項および244条)。
ただし、異議を述べる対象の債権が、執行力のある債務名義又は終局判決のあるものの場合は、異議を述べた者(=申立人)が再生債権の評価の申立てをしなければなりません。この場合、異議申述期間の末日から三週間の不変期間内に評価の申立をしなかったとき又は当該申立てが却下されたときは、異議はなかったものとみなされます(民事再生法227条。)。
評価の申立てがされた場合、裁判所は、個人再生委員による調査を命じる処分を行います(それまでに個人再生委員が選任されていなければ、選任を行います。)個人再生委員は、必要な調査を行い、その結果を裁判所に報告し、裁判所は、その報告を受けて再生債権の金額を評価します(民事再生法244条および227条)。
「STEP6」までの手続きを経て、再生債権額が確定します。
そして、この確定債権額に基づいて再生弁済額を算定し、再生計画案を作成することになります。
なお、これ以外に、「特別異議申述期間」という特殊な手続きがあります。
これは、債権届出期間が経過した後、再生計画案提出直前に新たな債権が判明した場合に使われる手続きです。
民事再生法95条1項には、「再生債権者がその責めに帰することができない事由によって債権届出期間内に届出をすることができなかった場合には、その事由が消滅した後一月以内に限り、その届出の追完をすることができる。」と規定されています。
そして、この規定に基づいて債権届出がされた場合は、その追完された再生債権(=期限後債権といいます。)の調査のために特別異議申述期間が設けられ、その期間中に債権認否をすることになります。
しかし、実務上は、特別異議申述期間が設けられることはほとんどありません。後述のとおり、通常、期限後債権は、債務者が自認債権として債権認否一覧表に記載することによって、再生債権者に加えます。
異議を述べない場合の手続き
債権者の届出債権額に異議を述べないケースとして、以下のふたつのケースがあります。この場合は、債権額全額を認める(=異議を述べない)債権認否一覧表を作成して、一般異議申述期間内に裁判所に提出します。
※ なお、「① 債権者一覧表記載の債権者のみが債権届出を行い、その届出債権額に異議がないケース」の場合、裁判所によっては債権認否一覧表の作成・提出不要としている所もあります。
- 債権者一覧表記載の債権者のみが債権届出を行い、その届出債権額に異議がないケース
- 届出債権額には、開始決定日前日までの利息と遅延損害金が付加されていることがほとんどです。これは正当な届出ですので、異議は述べません。
- 自認債権があるケース
- 債権認否一覧表に記載することにより、自認債権も、再生計画で定められた返済条件・方法で返済することができます。
① 届出債権額に対して異議を述べない場合の債権認否一覧表
債権者から届出のあった債権額について、その全額を認める場合の債権認否一覧表です。
なお、個人再生手続きでは、債権認否一覧表の提出義務はありません(民事再生法第238条および245条において、通常の民事再生手続きでの債権認否一覧表提出を義務付ける、民事再生法第101条が準用されない旨の規定あり。)。
その代わりとして、裁判所が必要があると認めるときは、再生債務者に対し、届出があった再生債権について、民事再生規則114条(債権者一覧表の記載事項等)第1項に規定する事項を記載した書面の提出を求めることができるとされています(民事再生規則120条)。
これが、いわゆる、「規則120条書面」であり、債権認否一覧表のことを指します。「規則120条書面」も、提出が義務付けられているわけではなく、各地の裁判所によって運用が異なります。管轄裁判所の運用を確認しましょう。
債権認否一覧表の提出義務がない裁判所では、届出債権に対して異議を述べない場合は特に何もしなくて良いということになります。
※自認債権がある場合は必ず債権認否一覧表を提出します。
債権認否一覧表(異議を述べない場合)
② 自認債権がある場合の債権認否一覧表
「自認債権」とは、債務者側が債権者一覧表に記載することを忘れてしまい、債権者側から債権届出もされなかった債権のことです。「自認債権」は、債権認否一覧表に記載することで、再生債権者に加えることができます。
この「自認債権」には、民事再生法95条に規定される、再生債権者がその責めに帰することができない事由によって、債権届出期間経過後に届け出られた債権、いわゆる「期限後債権」も含まれます。
自認債権がある場合は、必ず債権認否一覧表を提出しましょう!
債権認否一覧表(自認債権あり)
自認債権がある場合の債権認否一覧表の書き方
- ① 〇〇ローン(株)の「5-2」の債権(民事再生法95条「期限後債権」)
- 申立時の債権者一覧表には「1,559,980円」と記載していたが、債権者から、債権届出期間経過後に「1,756,230円」で債権届出がなされたケースです。
- 「届出債権の債権額」欄には、申立時に債権者一覧表に記載した金額を記入します。「認める額」欄には、債権者の届出債権額を記入します。
- 「債権届出書の提出」欄を「なし」にしているのは、債権届出期間経過後に提出されたためです。
- ② 千葉太郎の債権(自認債権)
- 申立時に債権者一覧表に記載しておらず、開始決定後〜債権届出期間の間に債権者からの債権届出がなかったケースです。
- 「届出債権の債権額」欄には、0円と記入します(申立時に債権者一覧表に記載がないので。)。「認める額」欄には、正しい債権額を記入します。
- ③ 自認債権についての注意事項(注4)を記入します。
このようにして、債権認否一覧表に記載することにより、自認債権も、再生計画で定められた返済条件・方法で返済することができますが、以下の点で届出債権とは取り扱いが異なることに注意が必要です。
- 自認債権には、再生計画案に対する議決権がない
- 自認債権は、再生計画における基準債権には含まれない(つまり、自認債権は、計画弁済総額の下限=最低弁済額の算定の基礎に含まれません)
特に、債務者にとっては、自認債権が基準債権に含まれないことで、返済総額で不利益を受けます。
異議を述べる場合の手続き
債権者から届出のあった債権額に異議がある場合は、申立人側は異議申述期間内に異議を述べることができます。
しかし、異議を述べることができるのは、「債権者一覧表において異議の留保をした場合」に限定されています(民事再生法226条1項)。
異議書
債権者の届出債権額に対して異議を述べるときは、裁判所に異議書を提出します。
異議書
異議を述べるケースとして代表的なもの
- 保証会社が代位弁済したケース(上記書式のケースです)
- 申立時の債権者一覧表では、保証会社の求償権を0円として記載しているはずですが、開始決定後に代位弁済がなされ、保証会社から求償権の届出がされたとき、次の条件のいずれかに当てはまる場合は、何もしないでいると、原債権と求償権の両方が手続き的に確定してしまうことになりますので、原債権について異議の申述をする必要があります。
- その債権届出書に名義変更届が添付されていない。
- 原債権者の債権額が、新債権者が主張する債権額よりも大きく、原債権者に債権が残っている形になっているが、原債権者から届出債権の一部取下書の提出がない。
- 申立時の債権者一覧表では、保証会社の求償権を0円として記載しているはずですが、開始決定後に代位弁済がなされ、保証会社から求償権の届出がされたとき、次の条件のいずれかに当てはまる場合は、何もしないでいると、原債権と求償権の両方が手続き的に確定してしまうことになりますので、原債権について異議の申述をする必要があります。
代位弁済や債権譲渡があった債権について、原債権者に対して異議の申述が必要かどうか判断に迷う場合は、裁判所に問い合わせましょう。
- 受任時に債権調査票を返送しなかった債権者が、利息制限法の利率に引き直されていない金額で届出をしてきたケース
- この場合は、届出債権全額に対して異議を述べることになります。そして、こちらの異議に対して、債権者側が引き直し計算書等を提出した場合は、認める債権額を除き、異議一部撤回書を提出します。
※ 債権認否一覧表の提出は義務ではありませんので、管理人は、異議を述べる際に債権認否一覧表を提出したことがありません。
異議を述べる際に債権認否一覧表の提出が必要な場合は、前項「債権認否一覧表」を参考にして作成して下さい。
裁判所にこの異議書を提出すると、裁判所から当該債権者に対して「異議通知書」が送達されます。そして、異議を述べられた債権者は、異議申述期間の末日から3週間以内に、裁判所に再生債権評価の申立をすることができます(民事再生法227条1項および244条)。
おわりに
以上、再生債権が確定するまでの流れを、債権認否一覧表や異議書の書き方を含めて解説しました。
次回は、確定した債権額に基づいて、再生計画による返済計画表を作成していきましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!