個人再生手続きを利用する場合、申立人が保有する車両はどのような取扱をすればよいのかという点について解説していきます。
ローンの有無に関係なく、個人再生手続きを利用すると保有車両はどうなるのかとういう点は、依頼者が住宅の次に気にされる事柄です。今回は、個人再生手続きにおける車両の取扱と、第三者弁済についてご説明します。
個人再生手続きを利用する場合、保有する車両はどうなるのか?
個人再生手続申立を希望される依頼者が、自動車を保有されているケースは多いと思います。そして、ローンの有無に関係なく、個人再生手続きを利用すると保有する車両はどうなるのかとういう点は、依頼者が住宅の次に気にされる事柄です。
ローンのない場合はもちろんのこと、ローンの残っている場合でも、車両を手放したくないという希望を持っておられることがほとんどです。
結論から言うと、保有車両にローンが残っている場合は、以下のどちらかの処理をすることになります。
- 車を債権者に返却して、公共交通機関を利用して生活する
- 親戚などの第三者にローン残金を支払ってもらい、車の使用を続ける
なお、代わりに支払いをしてくれる第三者がいない・ローン残金が高額なので第三者が支払うことができない場合、現在保有する車両は債権者に返却しなければなりませんが、再生計画の認可決定が確定した後で、再生債務の返済をしながらお金を貯めて中古車などを一括購入するのは構いません。
※再生債務の返済が最優先ですので、どうしても必要な場合に限るべきだと思います。
債権者と別除権協定を締結し、共益債権化するという方法は現実的ではありません。(別除権協定とは、再生債務者が従前どおりリース料を支払っていくことを条件に、リース料債権者は別除権を行使しないという協定を結ぶことです。この協定を結び、当該債権を共益債権化することで、再生手続き外で返済を行います。)
別除権協定は、申立人の事業の遂行に不可欠な物件でなければ認められず、通勤用の車両は共益債権とはなりません。
申立人が自営業者で、配送や移動販売に使用している車両であるなどのケース以外は、ただ単に車がないと生活が不便になるという理由で共益債権とするのは難しいと思います。
車検証と契約書をチェックしましょう。
依頼者がローン残のある車両を保有している場合は、以下の2つの書類をチェックしましょう。
- 車検証
- ローン契約書
所有権が留保されている場合、車検証の所有者欄にローン債権者の会社名が記載されているはずですが、最近では、車検証には記載されていなくても、所有権留保特約付きの契約を結んでいる場合がありますので、契約書もしっかりチェックしましょう。
なお、稀なケースですが、ローンで購入した車両でも、所有権の留保がない場合があります(車検証の所有者欄が依頼者の氏名になっており、かつ、所有権留保特約付きの契約ではない。)。この場合は、ローン債権者に車両を返却する必要はありません。
所有権が留保されている場合は、債権者に車両を返却します。
所有権が留保されおり、第三者弁済ができない(代わりにローン残金を支払ってくれる人がいない)場合は、再生手続申立てまでに、債権者に車両を返却します。
弁護士から受任通知を発送すれば、債権者の方から返却の要請がありますので、依頼者と打ち合わせをして返却手続きをしましょう。
車両返却後、債権者から、ローン残額から車の査定額を差し引いた額を債権額とした債権調査票が提出されます。債権者一覧表には、一般債権者として記載します。
申立てまでに返却が間に合わなかった場合は、買取業者等2社から査定書を取得します。そして、債権者一覧表には、ローン残額から車の査定額を差し引いた額を債権額(=担保不足見込額)として記載し、別除権付債権として取り扱います。※なお、所有権留保があっても別除権とならない場合もあります(次項)。
給与の差押えを受けているなど、申立てを急がなければならない特別な事情がない限りは、車を返却してから申立てを行いましょう。
所有権留保が別除権として認められない場合があります。
債権者が別除権を行使するには、対抗要件を具備する必要があります(平成22年6月4日最高裁判例:再生開始の時点で所有者として登録されていない限り、留保所有権を別除権として行使することは許されない)。
つまり、所有権留保特約付きの契約を結んでいても、車検証に「所有者」として登録されていない債権者は別除権者として扱うことはできず、他の債権者と同様に再生債権者として扱う必要があるのです。
(判示事項)
自動車の売買代金の立替払をした者が,販売会社に留保されていた自動車の所有権の移転を受けたが,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき所有者としての登録を受けていないときに,留保した所有権を別除権として行使することの可否
(裁判要旨)
自動車の購入者から委託されて販売会社に売買代金の立替払をした者が,購入者及び販売会社との間で,販売会社に留保されている自動車の所有権につき,これが,上記立替払により自己に移転し,購入者が立替金及び手数料の支払債務を完済するまで留保される旨の合意をしていた場合に,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,上記立替払をした者が上記の合意に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。
出典:最高裁判所 平成22年6月4日判決
ということは、ローン債権は一般再生債権として他の再生債権と同様に減額され、そのうえ車は今までどおり使用してもいいということですか?
理論上はそうなりますね。
しかし、車は申立てまでに債権者に返却したほうが良いです。
このローン債権は対抗要件を具備していないので、別除権として認められないものの、所有権留保があることには変わりありませんので、債権者から返却の要請を受けると思いますし、将来、債権者から、再生計画案に反対の意見を出される可能性もあります。また、別除権が認められないと言うことは、車両の清算価値についても、ローンのない車両と同様に扱われます。
このように、手続きが煩雑になってしまいますので、所有権留保がある車両は、別除権の対抗要件具備の有無に関わらず、再生手続申立てまでに債権者に返却するのが望ましいと思います。
追記
最高裁平成29年12月7日判決では、平成22年6月4日最判とは真逆の判断がなされ、車検証の名義がローン会社ではなく販売店となっていても、ローン会社による車両の引き揚げを認めています。
この2件の事案の相違等についての詳しい説明は省略しますが、実際の契約はいろいろな種類があり、これらの判例のうちどちらの事案にあたるのか判断が難しい場合もあると思います。車検証の名義が債権者になっていないから、車両を引き揚げされることはないとは言い切れませんので、やはり、所有権留保がある車両は、別除権の対抗要件具備の有無に関わらず、再生手続申立てまでに債権者に返却するのが望ましいと思います。
(判示事項)
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,保証人が留保所有権を別除権として行使することの可否
(裁判要旨)
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは,保証人は,上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができる。
出典:最高裁判所 平成29年12月7日判決
第三者弁済の具体的な手続き
親戚などの第三者にローン残金を支払ってもらい、車の使用を続けるという方法を選択する場合は、第三者弁済を行います。
第三者弁済とは、主債務者以外の第三者が債務者に代わって弁済することをいいます。債務者のために弁済をした者は、債権者に代位します(民法第499条)ので、ローン残金を支払った親戚等の第三者は、債権者に代わって再生手続きに参加することになります。
第三者弁済は、以下の手順で行います。
各STEPのタイトルをクリックすると、詳しい説明に飛びます!(STEP4を除きます。)
自動車の所有者を、第三者名義に変更してもらいます。
そして、名義変更した車検証の写しを、事務所へ提出してもらいます。
依頼者から第三者への確認
依頼者から、依頼者に代わって返済をしてもらう第三者へ、事情を説明して了承を得てもらいます。
なお、第三者弁済をお願いする相手は・・・
- 別居の親族にお願いをするのが望ましいです。
- 配偶者は第三者として不適格です(生計を同一にしているため。)。
- 友人や知人は、後にトラブルに発展する可能性がありますので避けましょう。
第三者への説明・確認事項は以下のとおりです。
- 車検証の所有名義を第三者に変更するため、自動車税も第三者に請求されること。
- 再生手続中は、その自動車税は第三者が納付すること。
- ローン債権者に代わって、第三者が債権者として再生手続きに参加することになり、支払ってもらったお金は他の債権者と同様に減額されたうえで3年~5年の分割返済になること。
- 再生手続中、裁判所から、手続きに関連する書類が届くこと(裁判所からの通知を煩わしく感じる方もおられます。通知に対して、何も対応する必要はなく、ただ受け取っておくだけで良いということを伝えましょう。)。
後でトラブルにならないように気を付けましょう。
必要であれば、第三者の方に弁護士から直接説明をしてもらいます。
依頼者から債権者へ事前連絡
依頼者から債権者へ、第三者弁済を行いたい旨を連絡して了承を得てもらいます。
1 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない
出典:e-Govポータル 民法第474条(第三者の弁済)
民法第474条に規定されている、「弁済をするについて正当な利益を有する者」とは、弁済をしないと不利益を被る人のことを指します。
「弁済をするについて正当な利益を有する者」にあたるのは、以下に該当する人です。
なお、保証人は、自らの債務として支払いする立場ですので、第三者弁済にはあたりません。
- 物上保証人(債務者の債務を担保するために、自身の不動産に担保権を設定した人)
- 担保不動産の第三取得者(担保不動産を購入した人など)
- 担保不動産の賃借人・留置権者・後順位抵当権者
依頼者の車両ローンを代わりに支払ってくれる方は、「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者」ですので、必ず、債権者の了承を得る必要があります。
支払い日時や支払い方法、正確な債権残高などについて打ち合わせをするためにも必ず事前の連絡が必要です。
残債務を一括で支払うという申し出を債権者に断られることはほとんどありませんが、稀に、システム等の都合上、第三者名義での入金を受け付けることができないと言われることがあります。
その場合は、第三者から現金を受け取って依頼者が支払いをし、依頼者宛の領収証を受け取るほかありません。
管理人のこれまでの経験では、そのような場合でも、第三者に名義変更をした車検証と債権調査票を提出することで、依頼者の偏頗弁済として問題視されたことはありませんが、十分に気を付けて対応をして下さい。
第三者から債権者への支払い
債権者の指示に従って、第三者の方から支払いをしてもらいます。その際に気を付けることは以下のとおりです。
- 第三者から直接債権者に支払いをしてもらうこと。
- 領収証の宛名は支払いをした第三者、但し書きは依頼者の債務の返済であることがわかるように記載してもらうこと。
第三者の方から依頼者の預金口座に返済資金を振り込み、依頼者が債権者に支払いをするということがないようにして下さい。
支払いが完了したら、債権者から受け取った領収証を事務所に届けてもらいます。
どんなに丁寧にご説明しても、第三者の方から振り込みを受けて依頼者がご自身で返済をして、領収証も依頼者宛にされてしまうことがあります。
管理人のこれまでの経験では、そのような場合でも、第三者に名義変更をした車検証と債権調査票を提出することで、依頼者の偏頗弁済として問題視されたことはありませんが、十分に気を付けて対応をして下さい。
第三者から弁護士への債権届出
依頼者もしくは第三者の方から領収証と名義変更済みの車検証を受け取ったら、領収証を確認して、第三者の方に記入してもらう債権調査票の見本を作成し、受任通知と一緒に郵送します。
他の債権者と同様に、受任通知と債権調査票用紙のみの送付でも構いませんが、第三者弁済の方には見本を付けてそのとおり記入してもらえば良いという状態にしておいたほうが、第三者の方に負担が少なく、こちらとしても万が一間違った記載をされた場合に訂正をお願いする手間が省けます。
債権調査票記入例(第三者弁済)
- 弁済日と金額は領収証のとおりに記載します。
- 切手を貼付した返信用封筒も同封しましょう。
ローンのない車両の注意点
ローンのない車両は、そのまま使用を続けることができますが、申立人の財産として計上される場合があります。
それは、その車両が、「初年度登録から7年以内であるとき」です。
初年度登録がいつなのかは、車検証に記載されています。確認しましょう。
初年度登録から7年以内である場合は、買取業者など2社から査定書を取得し、2社の平均価格がその車両の時価となります。財産目録には、この金額を記入します。
しかし、精算価値算出シート作成にあたっては、車両の時価が、そのまま清算価値になるとは限りませんので注意が必要です。裁判所によって、自由財産の取り扱いが異なるためです。
例えば、車両の時価が30万円のときの精算価値は、
- 車両は自由財産ではない扱い(控除なし)の場合 ・・・ 精算価値は30万円
- 車両は20万円まで自由財産として控除する扱いの場合 ・・・30万円−20万円=精算価値は10万円
このように、車両の時価が同じであっても、管轄裁判所によって精算価値は大きく異なります。再生手続きでの弁済総額算定に関わりますので、気を付けましょう。
清算価値算出シートの作成方法についてはこちら
おわりに
以上、個人再生手続きにおける自動車の取扱と、第三者弁済の方法について解説しました。
個人再生事件では、第三者弁済を行う機会が多々ありますので、依頼者にご説明するためのリーフレットなどを作成しておくのも良いと思います。
今日も笑顔でがんばりましょう!