民事訴訟の終了事由と、その際の手続について解説していきます。
訴訟は、様々な理由で終了を迎えます。訴訟が終了する際に、私達パラリーガルが関わるのは、取下書の提出や判決確定の確認などがありますが、具体的にどのような手続が必要なのかご説明します。
民事訴訟の終了事由
訴訟手続は、訴状の提出によって開始されますが、様々な事由に基づいて終了を迎えます。
最も典型的な訴訟手続の終了事由は、言うまでもなく判決ですが、訴訟手続は、裁判上の和解、付調亭、請求の放棄・認諾、訴えの取下げなどによっても終了します。
和解による終了
訴訟の継続中に、当事者間の話し合いや裁判所の勧告などによって当事者双方がその主張を譲り合って訴訟を終わらせる旨の合意をすることを、和解(訴訟上の和解)といいます。
和解が成立し、和解条項が和解調書に記載されると、その時点で訴訟は終了します。そして、この和解調書は確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法第267条)。
相手方が和解条項を守らなかった場合は、和解調書に基づいて強制執行をすることができます!
付調停
裁判の継続中に、裁判所より、むしろ調停での話し合いによる解決を図った方が良いと判断される場合があります。このような場合、訴訟の進行は一旦停止され、調停に付されます。そして、その調停が成立すると、調停調書が作成され、元の訴訟事件は取り下げがあったとみなされて終了となります(民事調停法第20条)。
なお、双方の話し合いがうまくいかず、調停が不調(不成立)に終わった場合は、元の事件に戻り、判決手続きが進行することになります。
例えば、離婚等請求事件において、養子に対する離縁請求も一緒にしていた場合に、離縁請求についてのみ調停に付されたというケースがあります。
注)離婚や認知など、夫婦や親子等の関係についての争いを解決する訴訟を「人事訴訟」といい、家庭裁判所に訴えを提起して行いますが、人事訴訟は民事訴訟の一種ですので、基本的には民事訴訟の審理手続と同じ手続で行われます。
請求認諾、請求放棄による終了
被告が、口頭弁期日や弁論準備手続期日において原告の請求を認めたときは、そこで訴訟が終了します(民事訴訟法第266条)。
この場合は、認諾調書が作成され、この調書は確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法第267条)。
また、原告が口頭弁期日や弁論準備手続期日において請求を放棄したときも、そこで訴訟が終了し、調書が作成されます。
取り下げによる終了
原告は、判決が確定するまでは、訴えの全部または一部を取り下げることができます(民事訴訟法第261条1項)。
ただし、被告が準備書面を提出し、弁論準備手続での申述や口頭弁論を行なった後は、被告の同意がなければ取り下げにはなりません(民事訴訟法第261条2項)。
このように、原告の訴訟に対する防御行為として被告が弁論や申述を行うことを「応訴」といいます。
書面を提出することによる取り下げ
取下書を提出することによって訴訟を終了させる場合、被告の応訴前・応訴後によって実務手続が異なります。
被告の同意が必要かどうかで手続きが異なるためです。
被告の応訴前
被告が応訴する前の段階であれば、いつでも被告の同意を得ることなく取り下げが可能です。
取下書
- 取下書は、裁判所用1通+被告の数を提出します。
- この事例では、裁判所用1通+被告の数3通の合計4通です。
- 被告に訴状が送達される前であれば、裁判所用の1通だけを提出します。
- 被告への送達用として、郵便切手84円×被告の数が必要です。
- 訴状提出時に添付した郵便切手で足りる場合がほとんどですので、取下書提出前に裁判所に問い合わせましょう。
- 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。
被告の応訴後
被告が応訴してきた後の段階で取り下げをするときは、被告の同意が必要です。
この場合、被告の同意を得る方法として、以下の2つの方法があります。
- あらかじめ同意を得てから取り下げをする方法
- 先に取り下げをして、あとからその取り下げに対する同意を得る方法
① あらかじめ被告の同意を得てから取り下げをする方法
あらかじめ被告の同意を得てから取り下げをする場合は、取下書の下部に被告代理人の署名・押印をもらいます。
そして、その取下書を裁判所に提出すると、その時点で訴訟は終了となります。
取下書
- 取下書は、裁判所提出用1通+被告の数を作成します。
- この事例では、被告3名ですが、代理人が共通なので、裁判所用1通、被告3名の代理人用1通の2通になります。
- 作成した取下書全てに被告代理人の同意の署名・押印をもらいます。
- 1通は被告代理人に控えとしてそのままお渡しします。
- 被告代理人弁護士本人の自筆である必要はありません。
- 事務員の代筆や、弁護士名のゴム印でも大丈夫です。
- 被告の同意を得てから取り下げをするので、裁判所から被告に副本を送達する手続きはありません。よって、裁判所に提出するのは裁判所用の1通のみ、切手も不要です。
- 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。
被告代理人の事務所が近所にあり、同意をもらった当日に裁判所に提出できる場合は、提出日の日付を入れた取下書をお届けします。
遠方の被告代理人と郵送でやりとりする場合は、裁判所に提出した後に、提出した取下書のコピーを郵送しましょう。
取下書の提出日をお知らせするためですね!
② 先に取り下げをして、あとからそれに対する同意を得る方法
事前に被告側の同意を得なくても、取り下げをすることは可能です。
この場合は、裁判所に取下書を提出して、裁判所から被告に送達してもらいます。
そして、取下書が被告に届いてから2週間以内に異議が出ない場合は、被告は取り下げに同意したものとみなされます(民事訴訟法第261条5項)。
取下書を提出したら、裁判所からの連絡を待ちましょう。
取下書
- 取下書は、裁判所用1通+被告の数を提出します。
- この事例では、被告3名ですが、代理人が共通なので、裁判所用1通、被告3名の代理人用1通の2通になります。
- 被告への送達用として、特別送達料金分の郵便切手×被告の数が必要です。
- 被告へは、普通郵便ではなく、特別送達されます。訴状提出時に添付した郵便切手で足りるかどうか、取下書提出前に裁判所に問い合わせましょう。
- 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。
特別送達料金とは、一般書留料金(480円) + 特別送達料金(630円) + 基本料金 です。
よって、基本料金が84円(郵便物の重さが25グラムまで)の場合は、1194円になります。※令和5年10月現在
書面の提出によらない取り下げ
取下書を提出して行う以外にも、取り下げの方法(制度)があります。
口頭での取り下げ
口頭弁論期日や弁論準備手続もしくは和解期日においては、その場で口頭による取り下げも認められています(民事訴訟法第261条3項)。
擬制取り下げ
原告が裁判を取り下げたものと「みなす」、擬制取り下げという制度もあります。この場合、改めて取下書を提出する必要はありません。
当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。
出典:e-Govポータル 民事訴訟法第263条
判決言い渡しによる終了
訴訟手続を進めていくなかで、取り下げや和解に至ることがなければ、判決が言い渡されることになります。
判決期日
判決期日は、公開の法廷で行われます。判決言渡期日は主文だけが言い渡され、当日は双方弁護士も依頼者も出廷しないのが普通です。
事件の係属先が最寄りの裁判所の場合は、判決正本ができあがり次第、裁判所から事務所に電話連絡がありますので、直接受け取りに行きます。
職印を忘れずに持って行ってね!
遠隔地の場合は、裁判所から事務所へ送達されます。
ゴールデンウィークや年末年始などの大型連休の直前に判決正本を受け取る場合は、裁判所からの電話連絡を受けた際に、必ず、判決主文を教えてもらうようにしましょう。
こちら側が一部又は全部敗訴だった場合は、控訴を検討することになりますが、大型連休直前に判決を受け取ってしまうと、休日中に控訴期間が経過してしまい、依頼者との打ち合わせの時間が十分に取れない可能性があります。
判決が確定したかどうかの確認
判決が言い渡されただけでは、訴訟は終了しません。その判決が確定してはじめて、終了ということになります。そして、判決が確定するのは、言い渡された判決に変更や更正などがなく、当事者が控訴をしないで控訴期間が経過したときです。
控訴期間は、判決の送達を受けた日の翌日から起算して2週間です(民事訴訟法第285条)。
こちらが判決正本を受領した日から2週間経過後に、裁判所に電話で問い合わせましょう。
相手方が控訴していた場合は、「〇月〇日に控訴がありました。」と伝えられます。また、相手方の控訴期間が満了していない場合は、「〇月△日の経過で確定予定です。」と教えてもらえます。この場合は、△日が経過してからもう一度問い合わせをしましょう。
控訴期間の日数計算方法について
- 判決を受領した当日は、日数計算に算入しません。
- 控訴期間がいつからいつまでになるのかは、当事者によって異なります。
- 例えば、 原告は6月1日に判決を受領し、被告は6月4日に受領した場合、原告の控訴期間は6月2日から6月15日までの14日間、被告の控訴期間は6月5日から6月18日までの14日間となります。
- 最終日が土日祝日又は年末年始(12月29日~1月3日)であるときは、その翌日(その翌日が土日等であれば更にその翌日)が最終日となります。
- 例えば、12月17日に判決を受領した場合に、14日目は12月31日となりますが、この日は年末年始に当たるので、控訴期間は1月4日までとなります。
相手方が控訴していた場合は、どうすればいいんですか?
その場合、当面こちらがすることは何もありません。
大体1ヵ月後に、依頼者の自宅に高等裁判所等から控訴状が送られてきます。依頼者には、相手方が控訴したことを伝え、控訴状が届いたらご連絡いただくようにお願いをします。
判決が確定したら
判決が確定した後、判決に基づいて相手方(被告)に請求をして(請求書を郵送するなど)、その通りに支払がなされれば、事件は完全に解決します。
しかし、それでも相手方(被告)からの支払がなされない場合は、確定した判決に基づいて、強制執行などの手続をして債権を回収することを検討することになります。
強制執行を行うために準備することについてはこちら
判決確定証明申請書
- 提出先は、当該事件記録を保管している裁判所です。
- 事件記録は、裁判が確定した場合、第一審裁判所で保管することになっているため、通常、一審裁判所へ申請をします。
- 控訴中などのため、事件記録が上級裁判所に系属している場合は、その上級裁判所へ申請します。
- 証明書発行手数料として収入印紙150円を添付します。
- この書式のとおり、2枚とも裁判所に提出すると、1枚目の空欄に証明印が押印され、確定証明書として交付されます。
- 証明書が複数枚必要な場合は、1枚目を必要な数だけ作成し、2枚目の請書部分の受け取り枚数をその必要枚数に変更します。添付する収入印紙は、150円×必要枚数です。
おわりに
以上、民事訴訟の終了事由と、終了の際の実務手続について解説しました。
なんとなく、裁判と言えば判決が言い渡されて終わるものだと思っていたのですが、仕事をしていくなかで、判決以外の事由、特に和解で終了する場合が意外に多いことに驚きました!
お互いに譲歩し合って問題が解決できれば、それが1番ですよね。
今日も笑顔でがんばりましょう!