家事調停事件の終了事由と手続について、取下書の提出方法と審判確定の確認方法を中心に解説します。

家事調停事件の終了事由と、その際の手続について解説していきます。

りか

家事調停事件は、様々な理由で終了を迎えます。家事調停事件が終了する際に、私達パラリーガルが関わるのは、取下書の提出や審判確定の確認などがありますが、具体的にどのような手続が必要なのかご説明します。

目次

家事調停事件の終了事由

家事調停とは、家庭内の紛争にまつわる事柄について、家事審判官(裁判官)の判断だけでなく、民間から選ばれた調停委員などの参加を得て、当事者間の話し合いによりお互いが合意することで公平妥当な解決を目指す手続です。

家事調停の手続は、申立書の提出によって開始されますが、様々な事由に基づいて終了を迎えます。

最も典型的な家事調停手続の終了事由は、言うまでもなく調停成立ですが、調停手続は、調停なさず、調停不成立、申立ての取下げ、調停に代わる審判などによっても終了します。

出典:金沢家庭裁判所

調停の成立

調停において当事者間に合意が成立し、合意事項が調書に記載されると、調停が成立し、調停事件は終了します。そして、この調停調書は、確定判決(別表第2に掲げる事項にあっては、確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有することになります(家事事件手続法第268条1項)。

相手方が合意事項を守らなかった場合は、調停調書に基づいて強制執行をすることができます!

なお、調停事件が合意によって終了した場合の効力等については、事件の種類によって次のように扱いが異なります。

  • 別表第2調停
    • 合意が成立し、その合意が調停調書に記載された場合、その記載は、確定した審判と同一の効力があります。
  • 特殊調停
    • 合意に相当する審判が確定すると、確定判決と同一の効力が認められます。
  • 一般調停
    • 合意が成立し、その合意が調停調書に記載された場合、その記載は、確定した判決と同一の効力があります。

特殊調停の場合

特殊調停事件では、当事者間の合意があった場合、「調停の成立」で終了するのではなく、「合意に相当する審判」という特殊な審判を行います。

* 特殊調停事件とは、本来は人事訴訟(身分関係を争う訴訟)によって判決を得ることで解決を図る事件のうち、離婚や離縁の訴えを除いたもので、以下のような事件が該当します。

  • 婚姻の無効、取消し
  • 協議離婚の無効、取消し
  • 婚姻関係の存否確認
  • 嫡出否認
  • 認知
  • 認知の無効、取消し
  • 父を定める訴え
  • 実親子関係の存否確認
  • 養子縁組の無効、取消し
  • 協議離縁の無効、取消し
  • 養親子関係の存否確認
  • その他の身分関係の形成または存否の確認
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調停なさず

裁調停委員会は、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、家事調停事件を終了させることができるとされています(家事事件手続法第271条)。

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管理人は、このケースを経験したことはありません。

調停の不成立

調停の不成立とは、当事者間に合意が成立しなかった場合のことをいいます。

なお、「不成立」を決定するのは裁判所(調停員会)です。当事者は「不成立」を希望することはできますが、決定することはできません(家事事件手続法第272条1項)。

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調停を申し立てた人が自ら申立てを取りやめる、「取下げ」とはこの点が異なります。

一般調停事件のうち訴訟の対象にもなる事件及び特殊調停事件が不成立となった場合、最終的な解決のためには、改めて裁判所に訴訟を提起する必要があります。

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原則として、これらの事件は、調停不成立となっても、自動的に審判に移行することはありません。

それに対して、別表第2調停事件では、調停が不成立の場合には、調停の申立て時に審判の申立てがあったとみなされるので、自動的に審判に移行して結論が示されることになります。

なお、例外として、調停が成立しないときでも、家庭裁判所が当事者双方の様々な事情を考慮し、審判によって一定の解決を示すことが相当だと判断した場合は、調停に代わる審判をすることができると規定されています(家事事件手続法第284条)。この審判に対して2週間以内に当事者から異議が申し立てられることなく確定した場合、審判は確定判決と同一の効力をもち、異議が申し立てられた場合には、その審判は効力を失うことになります。

訴訟移行の際の手続についてはこちら

取下げによる終了

家事調停において、申立人は、家事調停事件が終了するまで、申立ての全部又は一部を取り下げることができます(家事事件手続法第273条1項)。

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ただし、以下の例外があります。

取下書を提出することによって調停を終了させる場合、相手方の同意が必要なもの

  • 遺産分割調停申立において、相続開始の時から10年を経過した後(家事事件手続法第273条2項)。
  • 合意に相当する審判がされた後(家事事件手続法第278条)。

取り下げをすることができないもの

  • 調停に代わる審判がされた後(家事事件手続法第285条1項)。

家事調停の申立ての取下げは、第273条第1項の規定にかかわらず、調停に代わる審判がされた後は、することができない。。

出典:e-Govポータル 家事事件手続法第285条1項

取り下げの手順

取り下げによって調停を終了させる場合、相手方の同意が必要かどうかによって実務手続が異なります。

なお、家事事件手続法第82条5項および同法第273条3項(民事訴訟法第261条3項)において、家事調停・審判の手続の期日に口頭で取り下げをすることが認められてますが、実務上は取下書の提出を要求されます。

相手方の同意が不要な場合

相手方の同意が不要な事件の書式です。

家事調停の取下書(基本)

家事調停の取下書
  • 取下書は、裁判所用1通+相手方の数を提出します。
    • この事例では、裁判所用1通+相手方の数3通の合計4通です。
    • 相手方3名の代理人が共通の場合は、裁判所用1通、相手方3名の代理人用1通の2通になります。
    • 相手方に申立書が送達される前であれば、裁判所用の1通だけを提出します。
  • 相手方への送達用として、郵便切手84円×相手方の数が必要です。
    • 申立の提出時に添付した郵便切手で足りるかどうか、取下書提出前に裁判所に問い合わせましょう。
    • 詳しくは、下記「郵券について」を参照してください。
  • 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。

郵券について

相手方に取下書を送達するための郵券が必要かどうかは、場合により異なります。

  • 相手方代理人弁護士が裁判所近郊在住の場合 ・・・ 郵券は不要(相手方代理人弁護士が裁判所へ直接副本を受け取りに行くため)
  • 相手方代理人弁護士が遠方の場合 ・・・ 郵券が必要(裁判所から相手方代理人弁護士へ送達されるため)

なお、相手方に代理人がついていない場合は、原則として、裁判所近郊在住でも裁判所から送達される扱いになります。判断に迷う場合は、取下書提出前に裁判所に問い合わせましょう。

相手方の同意が必要な場合

相手方の同意が必要な家事調停事件の取り下げを行う場合、以下の2つの方法があります。

  1. あらかじめ同意を得てから取り下げをする方法
  2. 先に取り下げをして、あとからその取り下げに対する同意を得る方法

① あらかじめ相手方の同意を得てから取り下げをする方法 

あらかじめ相手方の同意を得てから取り下げをする場合は、取下書の下部に相手方代理人の署名・押印をもらいます。

そして、その取下書を裁判所に提出すると、その時点で事件は終了となります。

家事調停の取下書(相手方の同意あり)

家事調停の取下書(相手方の同意あり)
  • 取下書は、裁判所提出用1通+相手方の数を作成します。
    • この事例では、相手方3名ですが、代理人が共通なので、裁判所用1通、相手方3名の代理人用1通の2通になります。
  • 作成した取下書全てに相手方代理人の同意の署名・押印をもらいます。
    • 1通は相手方代理人に控えとしてそのままお渡しします。
  • 相手方代理人弁護士本人の自筆である必要はありません。
    • 事務員の代筆や、弁護士名のゴム印でも大丈夫です。
  • 相手方の同意を得てから取り下げをするので、裁判所から相手方に副本を送達する手続きはありません。よって、裁判所に提出するのは裁判所用の1通のみ、切手も不要です。
  • 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。
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相手方代理人の事務所が近所にあり、同意をもらった当日に裁判所に提出できる場合は、提出日の日付を入れた取下書をお届けします。
遠方の相手方代理人と郵送でやりとりする場合は、裁判所に提出した後に、提出した取下書のコピーを郵送しましょう。

取下書の提出日をお知らせするためですね!

② 先に取り下げをして、あとからそれに対する同意を得る方法

事前に相手方の同意を得なくても、取り下げをすることは可能です。

この場合は、裁判所に取下書を提出して、裁判所から相手方に送達してもらいます。

そして、取下書が相手方に届いてから2週間以内に異議が出ない場合は、相手方は取り下げに同意したものとみなされます(家事事件手続法第82条4項、同法第273条3項)。

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取下書を提出したら、裁判所からの連絡を待ちましょう。

家事調停の取下書(裁判所から相手方へ送達)

家事調停の取下書
  • 取下書は、裁判所用1通+相手方の数を提出します。
    • この事例では、相手方3名ですが、代理人が共通なので、裁判所用1通、相手方3名の代理人用1通の2通になります。
  • 被告への送達用として、特別送達料金分の郵便切手×相手方の数が必要です。
    • 相手方へは、普通郵便ではなく、特別送達されます。申立書提出時に添付した郵便切手で足りるかどうか、取下書提出前に裁判所に問い合わせましょう。
  • 裁判所に提出する際、FAX送信はできません。必ず、裁判所に持参するか、遠方の場合は郵送で提出します。

特別送達料金とは、一般書留料金(480円) + 特別送達料金(630円) + 基本料金 です。

よって、基本料金が84円(郵便物の重さが25グラムまで)の場合は、1194円になります。※令和5年10月現在

審判による終了

最初は調停として開始した事件が、審判に移行して終了する場合があります。

別表第2調停事件では、調停が不成立の場合には、調停の申立て時に審判の申立てがあったとみなされるので、自動的に審判に移行して結論が示されることになります。

また、一般調停事件のうち訴訟の対象にもなる事件及び特殊調停事件が成立しないときは、原則として自動的に審判に移行することはありません。しかし、これらの事件の場合でも、家庭裁判所が当事者双方の様々な事情を考慮し、審判によって一定の解決を示すことが相当だと判断した場合は、調停に代わる審判をすることができると規定されています(家事事件手続法第284条)。

審判の告知

審判の告知は、実務上、書記官による交付送達(=直接書面を渡して送達すること)や書留による送達によって行われています。

事件の係属先が最寄りの家庭裁判所の場合は、審判書ができあがり次第、裁判所から事務所に電話連絡がありますので、直接受け取りに行きます。

職印を忘れずに持って行ってね!

遠隔地の場合は、裁判所から事務所へ送達されます。

審判が確定したかどうかの確認

審判が下されただけでは、事件は終了しません。その審判が確定してはじめて、終了ということになります。そして、審判が確定するのは、言い渡された審判に変更や更正などがなく、当事者が即時抗告(=不服申立て)をしないで即時抗告期間が経過したときです(家事事件手続法第74条2項)。※なお、即時抗告のできない審判もあります。その場合、審判の告知を受けた時点でその効力が生じます(家事事件手続法第74条2項)。

即時抗告期間は、審判の告知を受けた日(=審判書を受け取った日)の翌日から起算して2週間です(家事事件手続法第86条1項)。

こちらが審判書を受領した日から2週間経過後に、裁判所に電話で問い合わせましょう。

相手方が即時抗告をしていた場合は、「〇月〇日に即時抗告がありました。」と伝えられます。また、相手方の即時抗告期間が満了していない場合は、「〇月△日の経過で確定予定です。」と教えてもらえます。この場合は、△日が経過してからもう一度問い合わせをしましょう。

即時抗告期間の日数計算方法について

  • 審判書を受領した当日は、日数計算に算入しません。
  • 即時抗告期間がいつからいつまでになるのかは、当事者によって異なります。
    • 例えば、 申立人は6月1日に審判書を受領し、相手方は6月4日に受領した場合、申立人の即時抗告期間は6月2日から6月15日までの14日間、相手方の控訴期間は6月5日から6月18日までの14日間となります。
  • 最終日が土日祝日又は年末年始(12月29日~1月3日)であるときは、その翌日(その翌日が土日等であれば更にその翌日)が最終日となります。
    • 例えば、12月17日に審判書を受領した場合に、14日目は12月31日となりますが、この日は年末年始に当たるので、即時抗告期間は1月4日までとなります。

審判書に誤記があった場合は、どうすればいいんですか?

りか

その場合は、速やかに裁判所に連絡をして更正の手続を行いましょう。

審判に誤記等があった場合の更正手続についてはこちら

審判が確定したら

審判が確定した後、その審判の履行がなされれば、事件は完全に解決します。

審判に基づいて離婚の届出や相続財産の払戻などを行う際には、審判書だけでなく、審判が確定していることを証明する書類も必要になりますので、忘れずに申請を行いましょう。※即時抗告のできない審判の場合は、確定証明書は不要です。

審判確定証明書の申請書式および申請方法はこちらの記事で解説しています。

りか

審判書を受領する際に、裁判所に確定証明書の申請をしておくと迅速に入手することができます。

審判が履行されない場合

金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有しますので(家事事件手続法第75条)、相手方の履行がなされない場合は、確定した審判に基づいて、強制執行などの手続を行うことを検討することになります。

強制執行を行うために準備することについてはこちら

おわりに 

以上、家事調停事件の終了事由と、終了の際の実務手続について解説しました。

りか

今日も笑顔でがんばりましょう!

      

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