個人再生手続によって給料の差押えをストップさせるには

個人再生手続きにおける、給与差押への対処方法について解説していきます。

りか

依頼者が給与差押まで受けていることは稀ですので、実務経験がない方も多いのではないでしょうか。

目次

対処方法はふたつ

個人再生手続きを取ることにより、給与差押に対処する方法は、

  • 給与差押を中止する方法
  • 給与差押を取り消す方法 

のふたつがあります。

このふたつ、言葉はよく似ていて混乱しそうになりますが、似て非なるものです。

「中止」方法では、債権者に差押債権が渡らなくなるというだけで、差押手続きそのものは続行します。従って、給与全額を受け取ることができないことに変わりはありません。

それに対して、「取消」方法では、その名のとおり、差押手続きそのものが取り消されるため、給与全額を受け取ることができるようになります。

「取消」手続きは、単体で行うのではなく、まずは「中止」を行い、その後に「取消」へと進みます。

給与差押の中止

給与差押を中止するには、以下のふたつの方法があります。

  1. 個人再生申立と同時に、個人再生の申立裁判所に対して強制執行中止命令の申立を行う方法
  2. 再生手続開始決定による当然中止を目指す方法
りか

次から順番に見ていきましょう。

個人再生申立と同時に強制執行中止命令の申立を行う方法

個人再生の申立と同時に、申立裁判所に対して強制執行中止命令の申立を行う方法です。

裁判所は、この申立がなされた場合、 必要があると判断したときは、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、給与の差し押さえを中止することができます。(民事再生法26条)

裁判所が、「必要があると判断したときは」ですので、必要性が認められないこともあります。実務上は、この中止命令申立ではなく、後述の開始決定による当然中止を目指すのが一般的です。

STEP
個人再生申立と同時に強制執行中止の申立を行う

個人再生申立書を提出する際に、債権差押手続中止命令申立書も一緒に提出します。

※この書式は、個々の事情に応じて細部を加筆修正してご使用ください。

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 当事者目録、請求債権目録、差押債権目録(債権差押命令を参考に作成します。)1通
  • 債権差押命令正本
  • 差押債権者の代表者事項証明書
  • 特別送達料金分の郵便切手(執行裁判所から、債権者へ特別送達するための費用です。)

 ※必要とされる切手の金額・種類は裁判所によって異なります。係属裁判所にお問い合わせください。

特別送達料金とは、一般書留料金(480円) + 特別送達料金(630円) + 基本料金 です。

よって、基本料金が84円(郵便物の重さが25グラムまで)の場合は、1194円になります。※令和5年10月現在

STEP
執行裁判所に強制執行中止の上申書を提出する

個人再生を申し立てた裁判所(再生裁判所といいます)が強制執行の中止命令を発令した場合は、その中止命令正本を添付した強制執行停止の上申書を、差押命令を出している裁判所(執行裁判所といいます)に提出します。

再生裁判所と執行裁判所は別の機関ですので、債務者の申立に基づいて再生裁判所が中止命令を出したことを、債務者から執行裁判所に報告しなければなりません。

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再生申立と債権差押命令の管轄裁判所は、どちらも「債務者の住所地を管轄する地方裁判所」ですので、この二つの事件は、同じ地方裁判所(の中の違う部署)に申立がされるということになります。「再生裁判所」とは、「破産再生係」を指し、「執行裁判所」とは、「債権執行係」を指します(裁判所によって部署の名称は異なります。)。

強制執行中止の上申書

強制執行中止の上申書 中止命令

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 中止命令正本(原本照合のあと、返却されます。)
  • 中止命令正本の写し
  • 委任状(依頼者からこの債権差押命令申立事件についての委任状を取り付けます。)
  • 84円切手×2枚(執行裁判所から、債権者と第三債務者への通知用の切手です。)
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委任状は、事件の表示欄を下記のように記入します(相手方欄には、債権者・第三債務者を記入。)。

委任状記載例(強制執行中止)

第1 事  件
 1 相 手 方 〇〇債権回収株式会社、株式会社〇〇商事
 2 裁 判 所 〇〇地方裁判所
 3 事   件 令和〇年(ル)第〇〇号 債権差押命令申立事件

委任状の基本的な書き方はこちら

STEP
執行中止命令が発令される

執行裁判所が執行中止命令を発令し、債権者と第三債務者(勤務先会社)の両方に裁判所から通知がなされます。これにより、それ以降、第三債務者(勤務先会社)が債権者に給与を支払うことはありません。

しかし、債権者に差押債権が渡らなくなるというだけで、差押手続きそのものは続行します。従って、差押分は留保され、給与全額を受け取ることができないことに変わりはありません。

留保された給与は、勤務先会社から法務局に供託されるか、もしくは勤務先会社で保管されることになります。

STEP
再生計画認可決定確定

再生計画認可決定確定により、強制執行手続きが失効した旨の上申書を、執行裁判所に提出します。

強制執行失効の上申書

強制執行失効上申書

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 再生計画認可決定正本(原本照合のあと、返却されます。)
  • 再生計画認可決定正本の写し
  • 再生計画認可決定確定証明書正本
  • 特別送達料金分の郵便切手(執行裁判所から、債権者への特別送達用の切手です。)
  • 84円切手×1枚(執行裁判所から、第三債務者への通知用の切手です。)

特別送達料金とは、一般書留料金(480円) + 特別送達料金(630円) + 基本料金 です。

よって、基本料金が84円(郵便物の重さが25グラムまで)の場合は、1194円になります。※令和5年10月現在

再生計画認可決定確定証明書の申請方法はこの記事に掲載しています

STEP
裁判所の取消決定がなされる。   

強制執行失効の上申書を提出すると、裁判所から債権差押命令申立事件の取消決定がなされ、取消決定の正本が交付されます。

この取消決定正本は、債権者および第三債務者にも送達されます。

裁判所の取消決定に対して、一定の期間内に債権者からの即時抗告(異議申立)がなければ、取消決定が確定します。

債権者の異議申立期間は、決定正本を受け取ってから1週間です。

管理人は、この取消決定には即時抗告ができない(=取消決定後、すぐに受取手続きに移行できる。)と理解していたのですが、令和3年8月に手続きを行ったところ、即時抗告期間を経て確定の取り扱いでした。

STEP
留保されていた給与を受け取る。

取消決定が確定したので、これまでに留保されていた給与を受け取ることができます。

勤務先会社で保管されていた場合

執行裁判所から勤務先会社に、決定正本が届きます。債務者ご本人から会社に問い合わせて受け取りの手続きをしてもらいます。

法務局に供託されていた場合

当事務所では、基本的に、供託金受け取りのための以下の手続きは、全て依頼者ご本人にしていただいています。その場合、各書類の申請者は依頼者ご本人・印鑑もご本人の実印を押印します。

① 執行裁判所に下記の2枚の書類を提出し、供託金受取のための証明書を取り付けます。

供託金交付上申書・受書

供託金交付上申書
供託金交付受書

このほか、印鑑証明書と実印、裁判所から法務局への通知用郵券が必要になります。必要な郵券の種類等については係属裁判所にお問い合わせください。

② 法務局に供託金払渡請求書と裁判所から受け取った証明書を提出します。

供託金支払請求書の用紙は、こちらからダウンロードできます。

具体的な記入方法は以下のとおりです。

供託金払渡請求書

供託金払渡請求書記載例

このほか、法務局には、以下の書類等を持参していただきます。

  • 運転免許証またはマイナンマーカードの原本とその写し
  • 印鑑証明書・実印(運転免許証またはマイナンバーカードがない場合)
  • 振込先を希望する銀行等の通帳(請求書提出時に再度確認するためです。)

再生手続開始決定による方法(当然中止)

再生手続の開始決定がなされると、再生債権に対するすべての強制執行手続きは当然に中止します。

再生手続開始の決定があったときは、破産手続開始、再生手続開始若しくは特別清算開始の申立て、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等若しくは再生債権に基づく外国租税滞納処分又は再生債権に基づく財産開示手続若しくは第三者からの情報取得手続の申立てはすることができず、破産手続、再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続及び再生債権に基づく外国租税滞納処分並びに再生債権に基づく財産開示手続及び第三者からの情報取得手続は中止し、特別清算手続はその効力を失う。

出典:e-Govポータル 民事再生法第39条1項
STEP
個人再生申立を行う

このとき、給与差押に関してすべきことは特にありません。

STEP
開始決定を受け、執行裁判所に強制執行中止の上申書を提出する

開始決定が下されると、給与差押は当然に中止になります。しかし、前述のとおり、再生裁判所と執行裁判は別の機関ですので、債務者が個人再生申立をして開始決定を受けたことは、債務者から報告しないかぎり、執行裁判所には知る由もありません。

そのため、強制執行中止の上申書を執行裁判所に提出します。

強制執行中止の上申書

強制執行中止の上申書 開始決定

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 再生手続開始決定正本(原本照合のあと、返却されます。)
  • 再生手続開始決定正本の写し
  • 委任状(依頼者からこの債権差押命令申立事件についての委任状を取り付けます。)
  • 84円切手×2枚(執行裁判所から、債権者と第三債務者への通知用の切手です。)
STEP
執行中止命令が発令される

執行裁判所が執行中止命令を発令し、債権者と第三債務者(勤務先会社)の両方に裁判所から通知がなされます。これにより、それ以降、第三債務者(勤務先会社)が債権者に給与を支払うことはありません。

しかし、債権者に差押債権が渡らなくなるというだけで、差押手続そのものは続行します。従って、差押分は留保され、給与全額を受け取ることができないことに変わりはありません。

留保された給与は、勤務先会社から法務局に供託されるか、もしくは勤務先会社で保管されることになります。

STEP
再生計画認可決定確定

再生計画認可決定確定により、強制執行手続きが失効した旨の上申書を、執行裁判所に提出します。

前項「STEP4」と同様に手続きします。

STEP
留保されていた給与を受け取る

前項「STEP6」と同様に手続きします。

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給与差押の取消

前述のとおり、差押を「中止」しただけでは、債権者に差押債権が渡らなくなるというだけで、差押手続きそのものは続行します。従って、給与全額を受け取ることができないことに変わりはありません。

「取消」手続きによって、差押手続きそのものを取消すことによって初めて、給与全額を受け取ることができるようになります。

裁判所は、再生に支障を来さないと認めるときは、再生債務者等の申立てにより又は職権で、前項の規定により中止した再生債権に基づく強制執行等の手続又は再生債権に基づく外国租税滞納処分の続行を命ずることができ、再生のため必要があると認めるときは、再生債務者等の申立てにより又は職権で、担保を立てさせて、又は立てさせないで、中止した再生債権に基づく強制執行等の手続又は再生債権に基づく外国租税滞納処分の取消しを命ずることができる。

出典:e-Govポータル 民事再生法第39条2項

再生債務者や、生計を同じくする同居家族に浪費傾向が見られる場合、あえて取消手続を行うことをせず、差押分が留保される状態にしておくという措置も考えられます。

再生計画認可決定確定までの給与留保期間の間、差押分を強制的に貯金してもらい、限られた収入の中で節約して家計をやり繰りする練習をするのです。

この場合、給与全額を受け取ることができませんので、再生返済資金の積立ができないとしても、差押分留保をもって再生資金積立とみなされますので、再生計画の認可には影響がありません。

給与差押の取消

 執行裁判所に強制執行中止の上申書を提出した後に、以下の順番で手続きをしていきます。

STEP
再生裁判所に強制執行取消の申立を行う

再生裁判所に対して、債権差押手続取消申立書を提出します。

債権差押手続取消申立書

債権差押手続取消申立書
債権差押手続取消申立書

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 強制執行中止の上申書写し(「中止」手続の際に執行裁判所に提出した上申書です。)
  • 特別送達料金分の郵便切手(執行裁判所から、債権者へ特別送達するための費用です。)

 ※必要とされる切手の金額・種類は裁判所によって異なります。係属裁判所にお問い合わせください。

特別送達料金とは、一般書留料金(480円) + 特別送達料金(630円) + 基本料金 です。

よって、基本料金が84円(郵便物の重さが25グラムまで)の場合は、1194円になります。※令和5年10月現在

STEP
執行裁判所に強制執行取消の上申書を提出する

再生裁判所が強制執行の取消命令を発令した場合は、その取消命令正本を添付した強制執行取消の上申書を、執行裁判所に提出します。

強制執行取消の上申書

強制執行取消の上申書 取消命令による

添付書類として、以下の書類等を合わせて提出します。

  • 取消命令正本(原本照合のあと、返却されます。)
  • 取消命令正本の写し
  • 84円切手×2枚(執行裁判所から、債権者と第三債務者への通知用の切手です。)
STEP
執行中止命令が発令される

執行裁判所が執行取消命令を発令し、債権者と第三債務者(会社)の両方に裁判所から通知がなされます。これにより、差押手続きそのものが取り消されるため、以後は給与全額を受け取ることができるようになります。

再生申立の段階で、取消の申立を行うことも制度上可能ではありますが、再生計画の認可の見込みが不明な段階で裁判所が取消命令を出すことはほとんどないと思われますので、ここでの説明は割愛します。

おわりに 

以上、個人再生における、給与差押への対処方法について解説しました。

供託金受取の手続きも含めて、はじめて行うときは悩むことも多いと思います。何事も経験だという気持ちでチャレンジしましょう。

りか

今日も笑顔でがんばりましょう!

      

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