住宅資金特別条項を定めた場合の再生計画案の書き方について解説していきます。
再生手続においては、住宅ローン特則を利用するケースが多いと思います。今回は、住宅資金特別条項を定めた場合の再生計画案の書き方についてご説明します。
住宅資金特別条項を定めた場合の返済計画案の作成・提出にあたって
再生手続には、「給与所得者等」と「小規模個人」の2種類がありますが、再生計画案の作成方法は、どちらの場合でも同じです。
この記事では、「給与所得者等」として書類を作成していますが、「小規模個人」の場合は、書式の中で、「給与所得者等」となっている部分を、「小規模個人」に修正するだけです。
また、裁判所への提出時期や、一緒に提出する書類の作成方法、再生計画案の修正方法等は、こちらの記事に詳しく解説してありますのでご確認下さい。
住宅資金特別条項を定めた場合でも、基本的な作成方法は通常の再生計画案と同様ですが、住宅ローンに関する事柄(物件目録、抵当権目録、住宅資金特別条項の内容等)を記入する点が異なります。
住宅ローンに関する事柄を記入するために、以下の書類を準備しましょう。
- 該当不動産の登記事項証明書
- 住宅ローン契約書一式(原契約書だけでなく、変更契約書等すべて)
なお、これらの書類は、基本的に申立時に裁判所へ提出しますので、すでに手元にあるはずです。
これらの書類は、既に申立段階で裁判所に提出していますので、改めて再生計画案に添付する必要はありません。
ただし、未提出の住宅ローン変更契約書や償還予定表がある場合は一緒に提出しましょう。
再生計画案(基本形)
それでは、再生計画案を作成していきましょう。
以下の書式は、教科書どおり、イレギュラーな事柄がひとつもない場合の再生計画案です。
- 住宅の種類・・・・・一戸建
- 住宅の所有者・・・・再生債務者
- 住宅ローン債務者・・再生債務者
- 抵当権者・・・・・・住宅ローン債権者
- 住宅資金特別条項・・リスケジュールなし。当初借入契約のとおりの返済を行う。
この書式は、個々のケースに応じて、事件番号・再生債務者氏名と、赤字の部分のみ修正して使用します。
再生計画案(住宅資金特別条項・基本形)
再生計画案作成にあたっての注意事項
- 一般条項についての詳しい書き方はこちらの記事をご確認ください。
- 「物件目録」・「抵当権目録」は、登記事項証明書を確認し、記載されているとおりに記入します。
- 共同担保になっている土地、建物はすべて記入します。
- 主たる建物のほか、附属建物が登記されている場合は、附属建物の表示も必ず記入します。
- 物件目録の所有者欄・・・「権利部(甲区) (所有権に関する事項)」
- 抵当権目録欄・・・「権利部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項)」および、「共同担保目録」
- 「別紙1」
- 「対象となる住宅資金貸付債権」は、当初借入の際の契約についてだけでなく、その後の変更契約があれば全て記入します。(例えば、固定金利期間の選択に関する特約書を交わしている場合など)。
- 「条項の内容」は、詳しく記入する必要はありません。この書式のまま使用します。
なお、再生計画による弁済期間は、原則として3年です。この書式では5年に延長してもらうことを前提にしていますが、その場合、裁判所によっては弁済期間延長の上申書の提出を求められることがあります。
弁済期間延長の上申書はこちら
住宅資金特別条項には、以下の5つのタイプがあります(民事再生法199条)が、再生計画案において、どのタイプに該当するか等を詳しく記入する必要はありません。
- 「約定弁済型」
- 当初の契約どおりの返済を続けるタイプ
- 「期限の利益回復型」
- 再生手続開始前の段階で滞納により期限の利益が喪失している場合に、その期限の利益喪失の効果を失わせることができるタイプ。
- 当初の契約どおりの返済+滞納部分を一定の期間内で分割払いします。
- 「弁済期間延長型(リスケジュール型)」
- 支払期限を延長し、各回の返済額を変更するタイプ
- ただし、元金・利息・遅延損害金の全額について、変更後の最終の弁済期が約定最終弁済期から最大10年を超えず、かつ、住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期における再生債務者の年齢が70歳を超えないものであること。
- 「元本猶予期間併用型」
- リスケジュール型を基本としつつ、再生計画による返済期間内(原則3年・最長5年)は元本返済猶予を受けるタイプ。
- 「同意型」
- 住宅ローン債権者の同意を得て、上記1~4以外の支払条件を定めるタイプ。
特殊なケース
前項では、基本的な再生計画案の書き方についてご説明しました。
しかし、教科書どおり、イレギュラーな事柄がひとつもない事例というのは稀だと思います。
この項では、悩みがちな事例について具体的な書き方を解説していきます。
住宅ローンのリスケジュールを行っている場合
個人再生手続のなかで、住宅ローンのリスケジュールを行っている場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「別紙1」のみを変更します。
再生計画案(住宅資金特別条項・リスケジュール)
住宅ローン債権者と抵当権者が異なる場合
住宅ローン債権者と抵当権者が異なる場合、つまり、保証会社の求償債権が被担保債権となっている場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「2頁」および「抵当権目録」を変更します。
登記事項証明書記載の抵当権者名が、住宅ローン債権者ではなく保証会社になっているときの書式です。
住宅ローン債権者が銀行の場合、抵当権者は保証会社であるケースが多く見られます。
再生計画案(住宅資金特別条項・住宅ローン債権者と抵当権者が異なる)
住宅ローン債権者が複数の場合
住宅ローン債権者が複数の場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「2頁」と「抵当権目録」を変更し、さらに「別紙」を債権者ごとに作成します。
フラット35と民間の金融機関を組み合わせて借り入れているケースです。
再生計画案(住宅資金特別条項・住宅ローン債権者複数)
不動産が共有名義の場合
不動産が共有名義の場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「物件目録」を変更します。
登記事項証明書記載のとおりに記入するだけです。
建物と土地で所有者が異なる場合(親族の所有する土地に申立人名義の家を建てているケース)でも同様です。
再生計画案(住宅資金特別条項・不動産が共有名義)
土地と建物で抵当権設定日が異なる場合、付記登記がある場合
土地と建物で抵当権設定日が異なる場合や、付記登記がある場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「抵当権目録」を変更します。
一戸建ての注文住宅の場合に見られるケースです。
注文住宅の場合、①まず土地を購入したときに、その土地について所有権移転登記および抵当権設定登記をして、②その後建物が完成したときに、その建物について所有権保存登記及び抵当権設定登記をするという流れが一般的です。
難しく感じるかもしれませんが、登記事項証明書記載のとおりに記入するだけです!
再生計画案(住宅資金特別条項・土地と建物で抵当権設定日が異なる、付記登記がある)
この書式は、モデルケースとして、架空の設定日や番号を設定し、時系列がわかりやすいように具体的な数字をいれています。
モデルケースでは、建て売りではなく、土地を買ってから建物を建てているので、土地を購入した平成28年10月14日(金銭消費貸借契約および保証委託契約の日)に所有権移転登記と抵当権設定登記を行っていますが、建物は、完成後の平成29年7月17日に所有権保存登記と抵当権設定登記を行っています。
そして、土地は債務者旧住所で登記をしているので、建物への設定登記の際に、土地の債務者住所変更登記を行っており、土地の付記登記は住所の変更登記です。さらに、同日、平成29年7月17日、土地に共同担保の付記登記(登記番号はないので共同担保目録番号のみ記載)も行っています。
なお、建物は、抵当権設定の際に、最初から新住所・共同担保つきで登記手続をしています。
集合住宅(マンション)の場合
不動産が集合住宅(マンション)の場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「物件目録」のみを変更します。
少し戸惑うかもしれませんが、登記事項証明書の記載どおりに記入すれば大丈夫です!
再生計画案(住宅資金特別条項・集合住宅)
再生計画案作成にあたっての注意事項
- 「一棟の建物の表示」は、登記事項証明書の「表題部(一棟の建物の表示)」を参照する。
- 「専有部分の建物の表示」は、登記事項証明書の「表題部(専有部分の建物の表示)」参照する。
- 「敷地権の表示」は、 登記事項証明書の「表題部(敷地権の表示)」を参照する。
- 「所有者」は、「権利部(甲区) (所有権に関する事項)」を参照する。
「巻き戻し」により、抵当権移転の付記登記がなされている場合
巻き戻し事案で、かつ、登記されている抵当権者から保証会社へ代位弁済を原因とする抵当権移転の付記登記がなされている場合の再生計画案です。
「基本形」のうち、「抵当権目録」を変更します。
少し戸惑うかもしれませんが、登記事項証明書の記載どおりに記入すれば大丈夫です!
再生計画案(住宅資金特別条項・巻き戻しによる抵当権移転)
民事再生法198条2項の規定により、住宅ローンの滞納によって住宅ローンの保証会社が住宅ローン会社に対して代位弁済した場合であっても、その代位弁済の日から6か月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、再生計画に住宅資金特別条項を定めることができるとされています。
これを「巻き戻し」といいます。
「巻き戻し」の効果によって、保証会社の代位弁済がなかったことになり、住宅ローンは住宅ローン会社に復帰しますので、住宅資金特別条項を利用することができるようになります(民事再生法204条1項)。
出典:e-Govポータル 民事再生法198条2項 (住宅資金特別条項を定めることができる場合等)
保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から六月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第二百四条第一項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について、住宅資金特別条項を定めることができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定した場合において、保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行していたときは、当該保証債務の履行は、なかったものとみなす。ただし、保証会社が当該保証債務を履行したことにより取得した権利に基づき再生債権者としてした行為に影響を及ぼさない。
出典:e-Govポータル 民事再生法204条1項 (保証会社が保証債務を履行した場合の取扱い)
住宅ローンに連帯債務者または連帯保証人がいる場合
民事再生法において、住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可が確定したとき、その再生計画は住宅ローンの連帯債務者・連帯保証人にも効力を有すると定めています(民事再生法203条1項、同177条2項)。
そして、この場合は、「基本形」の書式をそのまま使用します。連帯債務者や連帯保証人が存在することによって、加筆修正が必要となる箇所は特にありません。
住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定したときは、第177条第2項の規定は、住宅及び住宅の敷地に設定されている第196条第3号に規定する抵当権並びに住宅資金特別条項によって権利の変更を受けた者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利については、適用しない。この場合において、再生債務者が連帯債務者の一人であるときは、住宅資金特別条項による期限の猶予は、他の連帯債務者に対しても効力を有する。
出典:e-Govポータル 民事再生法203条1項 (住宅資金特別条項を定めた再生計画の効力等)
1 再生計画は、再生債務者、すべての再生債権者及び再生のために債務を負担し、又は担保を提供する者のために、かつ、それらの者に対して効力を有する。
2 再生計画は、別除権者が有する第53条第1項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。
出典:e-Govポータル 民事再生法177条 (再生計画の効力範囲)
おわりに
以上、住宅資金特別条項を定めた場合の再生計画案の書き方について解説しました。
各目録等の細かい書き方に戸惑うかもしれませんが、登記事項証明書や契約書等を確認して作成しましょう。
今日も笑顔でがんばりましょう!