不動産強制競売事件に、申立人としてではなく、債権者として参加するケースについて解説していきます。
申立人としての競売事件進行については、様々な書籍等で解説がされています。しかし、申立人ではなく、債権者のひとりとして参加する場合に、具体的にどのような対応をとればいいのかということについては情報が乏しいので、その当事者になって経験してみないと分からないことが多くあります。今回は、当事務所で実際に取り扱った経験をもとに解説していきます。
配当要求と債権届出
不動産を所有する相手方に対して債権を有しているが、相手方から(自発的には)弁済をしてもらえない場合においては、訴訟を提起し、勝訴判決を受け、その勝訴判決を債務名義として相手方の不動産の強制競売を申し立てて債権を回収するという流れが一般的です。
しかしながら、自らが申立人になって競売手続を行う以外に、他の債権者の申立てによって開始された競売手続に参加して、自己の債権の満足を受けることができる手続きがあります。
それは、
- 配当要求
- 債権届出 ← この記事で手順を説明しているのはこちら
のふたつです。
自分で競売申立てをしなくていいなんて、なんだか楽が出来てラッキーな気がします!
配当要求か債権届出か、どちらの手続きで参加するかというのは、自由に好きな方を選べるのですか?
自分で申立てをしなくていいという点では確かに楽かもしれませんが、他に債権者がいるということは、せっかく仮差押えをしたのにこちらの債権は全額回収できないかもしれない(最悪の場合1円も回収できないかも!)、ということでもありますよ。
また、自分で手続きを選ぶことはできません。どちらの手続きも、参加するためにはいくつか条件があります。次項から詳しくご説明します。
「配当要求」とは
配当要求とは、前述のとおり、債権者が自ら申立てをせずに、配当等を受けるべき債権者の地位を取得するために、既に開始されている他の債権者が申し立てた競売手続きに参加して自己の債権の満足を受けようとする手続きです。
しかし、誰でもこの手続に参加することができるわけではありません。配当要求をすることができる債権者は限定されています。
配当要求をすることができる債権者
配当要求ができるのは、以下のいずれかに該当する債権者に限られています(民事執行法51条1項)。
- 執行力のある債務名義の正本を有する債権者
- 差押えの登記後に登記された仮差押債権者
- 民事執行法181条1項各号の文書より、一般の先取特権を有することを証明した債権者
配当要求書の提出と、必要な書類
執行裁判所が定めた配当要求の終期までに、書面(配当要求書)により申し立てなければなりません。配当要求書については東京地裁の書式を参考にしてください(東京地裁のサイトにリンクしています。)。
共通必要書類
- 配当要求書
- 裁判所用正本+差押債権者および所有者(債務者)分の副本
- 申立費用として、収入印紙500円
- 郵便切手
- 配当要求書の副本を、差押債権者および所有者(債務者)に送達するために必要です。
- 裁判所によって必要な金種・枚数は異なります。管轄裁判所にお問い合わせ下さい。
- 申立債権者が法人の場合は、配当要求債権者の資格を証明するための商業登記事項証明書
共通書類に加えて必要とされる書類
- 執行力のある債務名義の正本を有する債権者の場合
- 執行力のある債務名義の正本として・・・
- 執行文が付与された判決正本
- 執行文が付与された和解(調停)調書正本
- 執行文が付与された公正証書正本
- 仮執行宣言付支払督促正本 など
- 執行力のある債務名義の正本として・・・
- 差押えの登記後に登記された仮差押債権者の場合
- 仮差押決定正本
- 仮差押えの執行としての登記がされた不動産登記事項証明書
- 民事執行法181条1項各号の文書より、一般の先取特権を有することを証明した債権者の場合
- 先取特権の存在を証明する文書として・・・
- 確定判決、審判書
- 公正証書
- 不動産登記事項証明書(差押え後)
- 先取特権の存在を証明する私文書 など
- 先取特権の存在を証明する文書として・・・
注意点
配当要求は、他の債権者の申立てによって開始された競売手続きに参加し、その手続上で配当等を受ける地位を取得するにすぎないため、その競売手続きが取り下げられたり、取り消されたりして終了したときは、配当要求をした債権者も当然ながら配当を受けられなくなってしまいます。
「配当要求」は、今回の記事のメインではありませんので、これ以上の詳しい解説は割愛しますが、配当要求書を提出した後の手続きは、「債権届出」の場合とほぼ同じ流れで進んでいきます。
「債権届出」とは
強制競売手続きにおいて、裁判所書記官が配当要求の終期を定めたときは、債権の存否ならびにその債権の発生原因および現存額を配当要求の終期までに執行裁判所に届けるべき旨を下記の者に催告することになっています(民事執行法第49条2項)。
- 差押えの登記前に登記された仮差押債権者
- 差押えの登記前に登記がされた先取特権、質権または抵当権で売却により消滅するものを有する債権者
- 租税その他の公課を所管する官庁または公署
これらの債権者は、裁判所からの通知の到達により、第三者による競売手続きの開始決定を知ることになります。
そして、上記①および②の債権者は、債権届出をする義務を負い、これに違反し、または不実の届出をしたときには、これによって生じた損害を賠償する義務を負います(民事執行法第50条)。
今回は、①の「差押えの登記前に登記された仮差押債権者」の立場で手続きに参加します!
債権届出の流れ
債権届出の手続きについて分かりやすくご説明するために、実際の事件をもとにして、下記の架空のケースを設定しました。
【依頼者】:本案離婚訴訟の原告 東京花子。
【債務者】:本案離婚訴訟の被告 東京太郎。競売対象不動産の所有者。
【債権者】:抵当権者の株式会社〇〇銀行。住宅ローン債権者であり、ローン滞納により、担保不動産競売を実行。
【事件の概要】
原告は、離婚訴訟中に、将来の債権回収が危ぶまれたため、保全手続きを行い、被告である配偶者東京太郎所有の自宅不動産に仮差押登記をしていた。離婚訴訟で一部勝訴し(400万円の請求に対し、認められたのは90万円)、被告の控訴もなく判決が確定したが、被告からの支払はなされなかった。その後の対応を検討していた矢先に、抵当権者である住宅ローン債権者の株式会社〇〇銀行が、担保不動産競売申し立てをした。
債権届出の流れ
債権届出は、以下の流れで進行します。
日付は架空のものですが、実際の経過時間に合わせていますので、手続きにかかる所要時間の目安として参考にして下さい。
依頼者の自宅に、裁判所から「債権届出の催告書」が届きました。
依頼者・弁護士とも、この通知が来て初めて、第三者によって競売手続が開始決定されたことを知りました。
催告書には、債権届出書の用紙が添付されており、その提出期限は5月6日であると記載されています。
委任状を提出していますので、通知書は事務所宛に郵送で届きます。
通知書には、以下のスケジュールが記載されています。
- 入札期間 8月8日~8月15日
- 開札期日 8月22日
- 売却決定期日 9月13日
これらの期日に出頭する必要はありません。
売却結果は、不動産競売物件情報サイトで確認することができます。
裁判所から電話連絡があり、裁判所に出向いて文書を受け取りました。
余談ですが、依頼者が住所を変更していたので、文書受け取りの際に住民票を持参し、原本照合のあとコピーを提出しました。
受け取った文書には、配当期日(10月24日)までに、下記の書類を提出するように記載されています。
- 債権計算書(記入例はこちら。)
- 請求書2通(振込先を記入するだけですので、書式見本は割愛します。)
- 執行文付きの判決正本
- 判決確定証明書
※ このほか、配当表を郵送してもらうため、切手を貼付した封筒も提出しました。
配当の3日前から、配当表の原案を閲覧することが出来ます。
なお、東京地裁では、FAXによる照会が可能です。
配当期日に出頭しない場合は、必ず閲覧しておきましょう。
万が一、配当額に対して異議がある場合は、配当期日に出頭しないと異議を述べることが出来ません。
事前に配当原案を閲覧し、異議がなければ特に出頭する必要はありません。
配当表は、事務所宛に郵送で届きます。
事前に指定した口座(事務所の預かり金口座)に配当金が振り込まれます。
裁判所の会計課から、配当金の振り込み手続についての通知が郵送で届きます。
通知書には、振込先口座の情報と、事件番号、振込金額が記載されています。
委任状の書き方
依頼者から、債権届手続きについての委任状を取り付けます。
委任者欄のみ署名・捺印してもらい、事件部分はこちらで以下のように記入します。
委任状の基本についておさらいしたい場合はこちら
債権届出書の書き方
債権届出書
債権計算書の書き方
債権計算書
※ 債権計算書を提出する際には、以下の書類もあわせて提出します。
- 執行力のある債務名義正本
- 判決送達証明書
執行文や送達証明書の具体的な申請方法はこちら
債務名義の還付申請
無事に配当金が振り込まれたら、裁判所に提出していた債務名義(執行力のある判決正本)を返却してもらいます。
債務名義は、待っていても自動的に返却はされませんので、こちらから還付の申請をしなければなりません。
裁判所に電話で問い合わせをして、還付を受けられるかどうか確認しましょう。事前連絡なしで還付申請に出向いても、裁判所の準備が出来ていない場合があります。
債務名義還付申請書
- 裁判所に提出するのは、この申請書1枚のみです。
- 取立届を提出する必要はありません。
- 手数料(収入印紙)は不要です。
- 遠方の場合は郵送で提出し、債務名義も郵送で返却されますので、宛名を記入した返信用封筒を同封します。貼付する切手の額は裁判所におたずね下さい。
管理人は、債権差押命令申立事件と混同して、「取立届」が必要かどうかで少し悩んでしまいました。
(参考)還付された債務名義には、この画像のように、末尾に配当を受けたことが記載された付記が綴られます。
担保の取消しと不動産仮差押命令申立事件の取り下げ
強制競売手続きが終了し、配当を受け、仮差押登記も抹消されましたので、次は、保全事件の担保を取り消す手続きをしなければなりません。
そして、担保の取消しを行った後で、不動産仮差押命令申立事件の取り下げをして、全てが終結するというのが一般的な順序です。
しかし、今回のケースでは、「権利行使催告」を申立事由とした担保取消しとなりましたので、一般的な順序とは異なり、担保取消しに先立って不動産仮差押命令申立事件の取り下げを行なっています。
担保の取消手続きおよび仮差押事件の取り下げについてはこちら
担保取消申立ておよび不動産仮差押命令申立事件取り下げの手順
今回のケースでは、以下の流れで進行しました。
日付は架空のものですが、債権届出手続きから連続させて実際の経過時間に合わせていますので、手続きにかかる所要時間の目安として参考にして下さい。
担保提供を命じた裁判所に、申立書および疎明資料を提出します。
なお、 本案離婚訴訟で400万円の請求に対し90万円が認められたことを一部勝訴とみなし、 担保取消の申立事由は 、「担保請求事由の消滅(79条1項)」としました。
申立時に提出した書類は以下のとおりです。
- 担保取消申立書
- 裁判所用正本の1通のみです。申立書副本は相手方には送達されません。
- 判決正本とその写し
- 判決確定証明書
- 法テラス発行の書類
- 地方事務所長等の支払保証委託契約の権限に関する規程
- 地方事務所長の資格証明書
- 地方事務所長からの委任状
- 支払保証委託契約原因消滅証明申請書2通
- 支払保証委託契約原因消滅証明申請書の受領書
- 収入印紙150円(証明書用)
- 相手方への担保取消決定正本送達用切手1089円(特別送達)×1
※ 今回のケースでは、法テラスを利用しています。
裁判所より、 担保取消の申立事由は 、「担保請求事由の消滅(79条1項)」ではなく、「権利行使催告(79条3項)」とすることを促されたため、担保取消しに先だち、不動産仮差押命令申立事件の取り下げをすることが必要となりました。
弁護士は、本案訴訟では一部勝訴しており、さらに、こちらは〇〇銀行の競売に便乗しただけなので、損害を与える余地はないのではと反論しました。しかし、それに対して、裁判所から、本案訴訟は一部勝訴ではなく一部敗訴であり、損害を与える可能性がないとは言えないので、権利行使催告を申立事由としなければならないとの判断がなされました。
不動産仮差押命令申立事件の取り下げのために提出した書類は以下のとおりです。
- 取下書
- 裁判所用正本+相手方分の副本の2通が必要です。
- 保全命令申立書と同じ印鑑を使用します。
- 当事者目録、物件目録を取下書の下に重ねてステープラー(「ホッチキス」など)で留め(左綴じ)ます。ページ番号を入れた場合は、各ページとの間に契印は不要です。
- 各ページの上部余白に捨印を押します。
- 不動産全部事項証明書(交付から1ヵ月以内のもの)
- 仮差押登記が抹消されていることを示すためです。
- 相手方への取下書送達用切手84円×1
- 取り下げには相手方の同意不要ですので、普通郵便です。
- 相手方への権利行使催告書送達用切手1089円(特別送達)×1
- 担保取消事由を変更したため、新たに必要となりました。
※ 競売により仮差押登記は抹消されているので、登録免許税や登記権利者義務者目録は不要です。
裁判所から、担保権利者(債務者)に対して、一定期間内に損害賠償請求権を行使すべき旨が催告(権利行使催告)されます。
この権利行使催告期間は、裁判所ごとに定められ、通常は2週間程度です。それに対する担保権利者(債務者)側からの権利行使届出期間は約1週間程度で定められます。
権利行使催告期間の日程等は、申立人側には特に通知はされません。裁判所から担保取消決定の連絡があるまで待ちましょう。
担保権利者(債務者)がその期間内に権利を行使しなかったので、担保取消しに同意したものとみなされ、裁判所の担保取消決定がなされました。
この担保取消決定正本は相手方にも送達されます。
裁判所から連絡がありますので、決定正本を取りに行きます。このとき、申立時に提出していた判決等の正本も返還されます。
裁判所の担保取消決定に対して、一定の期間内に相手方からの即時抗告(異議申立)がなければ、担保取消決定が確定します。
相手方の異議申立期間は、決定正本を受け取ってから1週間です。
そして、裁判所から、「供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書」が交付されます。
今回のケースでは、法テラスを利用していましたので、法テラスに裁判所から交付された「支払保証委託契約原因消滅証明書」と取消決定正本を提出します。
あとは、法テラスと銀行との間で契約解消等の手続きが行われます。
以上をもって、離婚訴訟、不動産仮差押命令申立事件、債権者として参加した強制競売事件全てが終了しましたが、強制競売事件を通して回収できたのは、債務名義90万円のうち62万3150円のみです。残金を回収するためには、他の方法(給与や銀行口座の差し押さえなど)を検討することになるでしょう。
おわりに
以上、債権届出の手続き (不動産強制競売事件に、申立人としてではなく債権者として参加するケース )について解説しました。
管理人にとっても、長年勤務する中で初めての手続きでしたが、新たな知識を増やす良い機会になりました。
今日も笑顔でがんばりましょう!